父親は嘘吐きだった。
別にいいのにと思うような些末な事でも嘘を吐いた。
例えば外を歩いていた時に「船越」という表札の家を発見した時に、父親はすかさず「ここは船越英二の生家だ」と答えた。
つい最近まで下の姉も自分もそこが船越英二の家だと信じて生きてきたが、うちのパートナーにその話をしたら「えー、確か四谷の人だよ」と言われ、wikiで調べたらその通りだった。
何故、子どもたちにそんな嘘を吐く必要があったんだろう。
正月の挨拶に来る親戚の中に初めて見かける男の人がいた。
父親はその男性を「義理の姉の弟だ」と紹介した。
おそらくそれは本当だったろうが、続けて「俳優をやっていて『ピロンの秘密』に出演していた」と言い、その男性も出来上がっていたせいか、「えへへ」と笑っただけで否定をしなかった。
テレビドラマ・データベースを調べてもその親戚らしき人物の名前は出ていない。
というかその親戚の本名も芸名も知らなかった。
あの人は誰だったんだろう。