黒まむしがお好きでしょ

駿台の夏期講習中、密かに気になっていた他校の女子と一緒に帰る事になった。
池袋にあった「カプリ」でランチを食べてから、東武東上線に乗った。

 

路線利用者以外で知ってる人は少ないかもしれないが、東武東上線は準急以上の電車に乗った場合、池袋から最初の停車駅成増までが異様に長い。
もちろんその間に中板橋やらときわ台やら駅がたくさんあるからだが、優に10分はかかる。

 

その日は夏休みでもことさら暑い日で、しかも気になっている女の子の前でカッコつけようとして飲めもしないのにカプリで白ワインなんぞを頼んでいた。
クリーム色の電車の車内で彼女と座って話をしている内に貧血のような状態になり、段々と嫌な汗が流れ始めるのがわかった。
彼女も「大丈夫、顔色が真っ白だよ」と気遣ってくれ、永遠とも思える10分を我慢し、成増で下車して駅のベンチで一休みする事にした。

 

「あたし、冷たいもの買ってくる」
彼女は甲斐甲斐しく駅のホームの売店に駆けていく。
(いい娘だなあ……)

ぼんやり思っていると彼女が走って戻ってきた。
「あのね、売店の人に聞いたら暑気あたりにはこれが一番だよって言われて買ってきた」

そう言った彼女の手には「黒まむし マムピン」とデカデカ書かれたドリンクの瓶が。
(安くはなかったろうに。年頃の女の子にとんでもないもの買わせてしまった……)

 

その後ほどなくして彼女と付き合う事になった。