写真をやっていて一番幸せだった日

写真部にいたくせにどんな写真が撮りたいかも定まっておらず、写真に対する情熱はあまり沸かないままだった。
川崎や川口の工場地帯に行っても煙突がにょきっとしているありきたりの構図の写真くらいしか撮れず、秩父まで写真撮影登山に出かけても半分ピントが合わない蝶々の写真しか物にできなかった。

 

そうこうしている間に何故かバンドのメンバー2人も写真部に入部してきた。

暗室で刺激臭のある定着液をパットに張って換気扇を付ければ、校内であるにも関わらず喫煙し放題という点に惹かれたのか、それとも自分のぐうたらな姿を見てこりゃ楽そうだと思ったのかその真意はわからなかったが、二人とも新品のカメラを持っていて少なくとも自分よりはやる気があるように見えた。

 

そんな感じだったが一気にテンションが上がる出来事があった。

当時、市ヶ谷駅近くの外堀通り沿いにシャープの市ヶ谷スタジオというスペースがあって、ラジオの公開録音をよくやっていた。
偶然そこの月間スケジュールを目にする機会があったのだが、何とそこにはラジオ番組公開録音、ゲスト:木之内みどりと書いてあった。

これは何としても行かねば。
平日だったが学校は休みにした。
元々制服のない高校だったので服装は問題なかった。いつもの写真撮影に行く雰囲気でカメラ少年御用達のアルミのカメラケースを肩にかけて、いざ市ヶ谷へと向かった。

 

市ヶ谷のスタジオに着いて番組がスタートした。
司会は「ぎんざNOW!」のせんだみつおと売出し中の女性講談師泉ピン子だった。

MC同士のゲスな会話の後に泉ピン子は三十人ほど集まった観客の中でどう見ても一番若い自分に目を留めていじってきた。
「立派な機材持ってっけど、どうせ撮った写真で変な事すんだろ?」

憧れのご本人がいる場でそれはないよー。
それ以来、この泉ピン子という講談師は嫌いになった。

 

何はともあれ、実物の木之内みどりはものすごく可愛かった。
帰りに地下駐車場で出待ちして、サインをもらった上に握手までしてくれた。