ガールフレンドのジュンジュンと親友のMと一緒に、「出る」という噂の国道沿いの古いモーテルへと向かった。
二車線の環状道路を東京都下方面に15分ほど走ると車の通行量は極端に減り、街灯もまばらになって寂れた気配が漂い出す。
左手に灯りの消えた一角が見え、暗い道沿いには大きな看板が立っていた。
「モーテル16」 携帯の懐中電灯に照らされたくたびれた看板は今いる国道の番号と同じだ。
目の前の暗闇に明かりを向けたがラブホテルのような複数階のビルではなく、広い敷地内に低層の建物が点在していた。
一番奥まった所にあるのが噂のモーテルだろう、中央にはフロント棟らしき建物があった。
車を適当なスペースに置いてから敷地に足を踏み入れた。
正面のフロント棟に近付いてドアノブに手をかけると施錠されておらず、ドアは簡単に開いた。
息を殺して建物内部に潜入したが、よくあるスプレーの落書きも叩き割られたガラスもなく、ただ電気が消えているだけのようだった。
携帯の懐中電灯で中の様子を確認した。
コの字型に置かれたソファとテーブル、ジュークボックス、バーカウンタとスツール、スナックの店内に似ていたが、大きな違いは監視カメラをモニターするためと思しき武骨な機械が鎮座している所だった。
廃墟感の乏しさ、ただ営業していないだけに見える雰囲気に当惑してその場を立ち去ろうとした時に、入ってきた背後のドアがバタンと音を立てて閉まるのが聞こえた。
風……?
暗闇の中でドアノブに手をかけたが動かない。
外に出られる場所はないか、パニックに陥りかけたその時、室内の電気が点いた。
出かかった声を抑えておそるおそる振り返ると、一人の女性がバーカウンタの中に立ってこちらを見つめていた。
「不法侵入だね」
目の前の女性が言った言葉を理解するのにしばらく時間がかかった。
ここは「出る」と噂の廃墟ではなく、普通に人間が生活を営む場所だったんだ。
非礼を詫びて、出ていこうすると再び女性が口を開いた。
「廃墟か何かと勘違いして入ってきたんだろうけど、これでもそこそこ流行ってるんだ。もう少し経たないとお客さんが来ないから消灯してただけさ」
そう言った女性は不思議な笑顔を見せた。
「まあいいよ。警察に通報するつもりはないから。その代わりと言っちゃ何だけど頼みを聞いておくれ」
女性はルリと名乗った。
一体幾つくらいなのか、小綺麗な年上の女性にも見えたし、とてつもない年月を生きる魔女のようでもあった。
ルリさんは明るい場所で見るとかなり深い紫色のソファに座るように促し、自らも灰皿とウイスキーの入ったグラスを手にして対面に腰掛けた。
「頼みって言っても簡単さ。ここでしばらく話に付き合ってくれればいいだけ」
ルリさんは紙巻のタバコに火を点けて満足そうに紫煙を吐き出した。