夢でも見てたのか

人生にはまるでエアポケットに落ちたような一瞬が存在する。

高校の正門とは別に裏門があって、近くには自転車置き場と各部活の部室棟があった。
教室のある本棟とは離れていて、先生方もあまり見回りには来ないので登下校はもっぱらそちらを利用していた。

 

ある朝、学校の裏門に着き、自分が属する写真部室の前に異様なものを発見した。
そこにはまごうことなきジャングルジム、公園にあるジャングルジムが建っていた。

しばらくするとバンドメンバーや他の生徒たちもやってきて、「あーあ」とか言っている。

 

そう言えば昨日は午前中降っていた雨が止んで、午後からはからりと晴れ上がった爽やかな日だった。

バンドメンバーと授業をさぼってタバコでも吸おうとなって学校から200メートルくらい離れた公園に出かけた。

てんでにブランコや他の遊具で遊んだり、タバコを吸いながらぼーっとしていたりした時、誰かが言った。

「なあ、このジャングルジム、危なくねえか」

午前中に振った雨のせいか地面が柔らかくなっていて、ジャングルジムの土台がむき出しになっていた。

しかもコンクリートで補強しているのかと思いきや、金属の足を直接地面に埋め込んで釘を打っていただけで、試しに手で押すとぐらぐら動いた。

「危ないよ、この足、地面から外れちゃうもん」

そう言って一人が四隅の端の足を持ち上げると、足は簡単に地面から離れた。

「……って事は」

 

「やっぱりな」

ちょうどその場にいたメンバー四人でそれぞれの隅の足を持ち上げてみるとどれも簡単に外れ、四人でジャングルジムを持ち上げる格好になってしまった。

「おい、どうすんだよ」

「どうするって、このまんま子供が遊んだら危ないだろ」

「だからどうすんだよ」

「そうだな。とりあえず学校に持って帰ろうぜ」

 

公園から学校の裏門までの200メートル、四人でジャングルジムを担ぎながら走って戻った。

「どこに置くんだよ」

「とりあえず部室の前でいいよ」

 

そうだ、自分たちが運んできたんだ。

その後、3日くらい部室の前にジャングルジムは鎮座していたけど、公園が気付いたのか、教職員の間で騒ぎになったのか、職員室に呼び出され、こってりと絞られた上にジャングルジムを公園まで再び戻すように言われた。