大スターに会った

小学校の時、下校時に道草をして近くの大きな神社で遊んでいると友人の一人が
「なあ、映画のロケやってるみたいだぜ」
と言った。

 

神社に併設した売店に行ってみると、一人の男性が売店の縁側に腰かけてタバコを吸いながら休憩していた。
「きっとあの人だ。サインもらえるかな」
「えっ、でも誰だかわかんない」
「大丈夫だよ。もらいに行こうぜ。ノートのどっかに書いてもらえばいいんだよ」

 

タバコを手にした男性におそるおそる近付いて消えそうな声でお願いした。
「あのー、サインもらえますか?」
男性はいきなり子供たちに話しかけられて一瞬だけ驚いたような表情を見せた。

「いいよ」
男性は吸っていたタバコを消すと淡々と答えた。
和服を着ていて、顔には大きな傷跡、ちょっと怖かった。

 

国語ノートの空いているページを差し出すと男性は苦笑いを浮かべた。
「マジックは?」
慌てるこちらを横目に男性は売店の主人に頼んでマジックを借りてくれた。

「……」
男性が無言のまま一人一人にサインを書き終えた所に関係者らしき別の男性が近付いた。
和服の男性は立ち上がり、そのまま神社の参道に向かって歩いていった。

 

ノートにはほんの少しだけ崩した形でサインが書かれていた。

「高・倉・健」