中学2年生だったと思う。
あまり生徒から好かれていなかった数学担当の教師が突然に自分の腕時計を指差して
「これはクォーツ時計だ」
と言った。
くうぅぉーつ?
初めて聞く言葉に生徒たちが反応できないでいるのがわかると、教師はおもむろに時計を取り外して手に取って見ていいと言った。
先頭の生徒から後ろに回り、隣の列の後方から前方に回る、誰も言葉もなくただ時計を見つめていると教師が
「気を付けて触れよ。高かったんだぞ。先生の月給一ヶ月分より高いんだ」
ようやく高価なものだと実感できて少し教室はざわつき始めた。
窓側に座っていた自分の所にもその高価なものが回ってきた。
CITIZENと書いてあったが、別に普通の時計にしか見えなかった。
生徒たちから戻ってきた時計を大事に腕にはめると教師は得意気に言った。
「これから時計は皆クォーツになるぞ。覚えておけ」
確かに教師の言った通り、それからすぐにクォーツ時計は安価になり、皆クォーツ時計を持つようになった。
だが2つばかり疑問が残る。
クォーツって何だ?
あの教師はすぐに値崩れを起こしたクォーツ時計を見て何を思ったんだろう?