高校生になってバンドを始めたが、それまでロックをほとんど聴いてなかったので、メンバーにバカにされるのではないかと内心びくびくしていた。
聴いてないのをバカにされるのはいいが、「じゃあ何を聴いてるんだ?」と質問された時の答えに対するリアクションも怖かった。
とにかく自分が聴いてきたのはカーペンターズ、エルトン・ジョン、ウイングスといったポップス系統、日本で言えば吉田拓郎、井上陽水、かぐや姫などのメジャーどころのフォークばかりだった。
「ジョン・デンバーのLP持ってる」なんて言おうものなら天地がひっくり返る騒ぎになるはずだった。
そんなある日、音楽の授業前にバンドのメンバー二人と音楽室に行った。
「まだ時間あるし、おれ、ピアノ弾くから歌おうぜ」
一人の提案で歌う事になった。
「じゃあ、ボヘミア」
「オーケー」
(なるほど、「ボヘミアン・ラプソディ」か。これは聴いたぞ。大丈夫大丈夫)
「うーん、次は何かな」
「こんなのどうだ?」
そう言ってメンバーが弾き出したのがこの曲だった。
(えっ、陽水じゃん。何だ、こんな曲も聴いてんの?)
よく考えれば当たり前だ。ロック以外の音楽を聴かない高校生なんている訳ない。
気が付けば三人で大合唱していた。