ようやく論文は完成し、後は仕上げだった。
当時はまだパソコンが普及しておらず、手書きで専用用紙に書き連ねたものを紐で綴じて製本するのが決まりだった。
締切ギリギリで製本後の論文を提出しようと走っていたら図書館の前で転んだ拍子に紐が切れて、全てがばらばらと宙に舞ったという悲劇が実際にあったと言う。
そして更に梗概と呼ばれるサマリーを英語と日本語の両方で作成しなければならず、英語版についてはネイティブの人の助けを借りた。
学校のラウンジでネイティブの人に英語版のサマリーをチェックしてもらっている時、彼が妙な機器を持ち出してきた。
電卓のように見えたが、もっと横に細長く、表示窓は小さく、下半分にはテンキーではなくキーボードが付いていた。
「What’s this?」
「あー、これはね。マイクロコンピュータ。このキーボードでコマンドを打っていくのです」
「Really. How you get the output?」
「結果はやっぱりこの窓に表示されます。狭いけどね。でも今はコンピュータじゃなくて電子タイプライター代わりにサマリーを打っていくよ。でプリントアウトもできる」
「わあ」
自分が授業で使っていた大型のディスプレイとは全く異なる電卓のような運べるコンピュータがあるなんて、テクノロジーの進歩はすごいものがあるな。
マイクロコンピュータ、通称マイコンか。覚えとこ。
Buckner & Garcia | Packman Fever(1981)