大学院の頃に教えていたクラスの学生は皆良い子たちだった。
一度授業の時間に大遅刻をした時も皆、笑顔で待っていてくれて、「どうしたんですか?」とか「Never Mind」とか言って許してくれた。
そんな中に一人の男子学生がいた。
電車の写真を撮っていそうな雰囲気という事で、確か「ブルトレ」と呼ばれていた気がする。
彼も又、良い生徒で授業が終わった後も他の学生たちと一緒に芝生で話し込んだりする事もあった。
ある午後、授業後に芝生で数人の学生たちと話し込んでいると、突然に「ブルトレ君」が
「あのー、前から聞きたかったんですけど、先生はそっちの人ですよね?」
ん、どういう意味?
答えないでいると
「そっちっていうのは、男性が好きという意味です」
二十数年生きてきて初めて言われた言葉だった。
すぐにディスコ仲間のNが「先生に何質問してんのよ」と突っ込んでその場は収まったが、受けた衝撃は計り知れなかった。
今まで何も考えず当然のように女性を想い、女性と付き合ってきたが、それは間違いだったか。
いや、待てよ。だとしたら男子校だった高校生の時にその兆候は出ていたはずだ。
芝生で考え込む自分を見てディスコ仲間のNが声をかけた。
「男にも女にも同じように優しいからそう思われるんじゃないの」
Nが言ったその一言こそが、ゲイやバイの人の特徴だと思っていたので、うーん、どこかすっきりしなかった。
Air Supply | All Out of Love(1980)