小学校、中学校の学区は古い城下町の旧市街だったため、団地は全くなかった。
ばあちゃんの弟が住んでいたような階段の木がみしみしと音を立てて裸電球が廊下にぶら下がっている薄暗いアパートや、いわゆる棟続きの長屋もあったが、同じ形状の建物が立ち並ぶ光景に出会った事がなかった。
高校になって、沿線の宅地開発で誕生した団地から通学してくる子たちが出現した。
なかなかチャンスがなかったが、高校2年の冬、とうとうお邪魔する機会ができた。
それほど親しくしていた相手ではなかったが、もしかすると一緒にバンドを組むかもしれないというので、メンバー二人と一方的に押し掛けた。
ドアを開けると左手に居間があってそこに通された。
居間には知らない紳士がお花畑で微笑んでいる、といった知らない紳士シリーズの写真が何枚も飾られていた。
「この人誰?」という言葉が喉元まで出かかったが、きっとこれは聞いちゃいけないんだと思い、自重した。
話に夢中になっている内に夕食の時間になり、「ご飯食べていきなさいね」と言われ、しゃばしゃばのカレーをごちそうになった。
団地から帰る時に最寄りの駅前にたこ焼き屋台が出ていたので、バンドのメンバーと分け合って一つ買って食べた。
その夜、猛烈な腹痛に襲われた。
たこ焼きが生焼けだったようだ。