携帯がなかった時代、待ち合わせは一種の賭けだった。
しかもそれが女の子との初デートで、相手のご両親がこちらをあまり良く思っていないのが電話越しに伝わってくるような場合の緊張感たるや。
新宿で映画でも観ましょうという事になり、彼女の家の最寄り駅で午前10時に待ち合わせた。
待ち合わせの約束をするために電話をかけた時、彼女の家のお母様が少しつっけんどんだったのと、「今後はこちらから電話するから」と言われたが、自分は稀代の好青年なので大丈夫だという無根拠な自信に溢れていた頃だったので、さほど気にしなかった。
約束の15分前くらいに駅前のロータリーに到着し、彼女を待つ事にした。
10時15分 あれ、遅刻だぞ
10時30分 あれあれ、遅刻だぞ
11時 あれあれあれ
12時 案外時間にルーズなのかな
13時 何かあったか
14時 もうデートなんてどうでもいい。一目顔が見たい
15時 無
16時 帰ろう
結局6時間待ったが相手は現れなかった。
その夜、消え入りそうな声で「……ごめんね。親が会っちゃいけないって」と電話があったが、どう答えていいのかわからず、それっきりだった。
この6時間待ちぼうけ記録は後にJFKやニューアーク、ヒースローといった空港で更新されるまで長期間タイトルホルダーだった。
ってただフラれただけなんだけど。
The Rolling Stones | Waiting on a Friend(1981)