Mと知り合ったのが1980年初頭でそこから平成に変わるくらいまで、あまり異性とのお付き合いがなかった。
自分はそれでもその期間に3人くらいと付き合ったが、Mは初恋の女性を想い続けて報われない日々を過ごしていた。二人ともシャイで、積極的に女性に声をかける事もなく、又二人でいた方が楽しかったので何の不自由も感じていなかった。
1980年代初頭、世間では新手の風俗が市民権を得ようとしていた。
確か最初が「ノーパン喫茶」だったと思う。
自分は踊りに行くのに夢中だったので歌舞伎町にその手の店が乱立し出しても全く行く気はなかったが、地元にも店がオープンした時にはさすがに「何だこりゃ」と思った記憶がある。
その後、ブームはあっという間に去り、その跡地には二匹目のドジョウを狙った新風俗、「のぞき部屋」とかができていた。
ある日、Mが真剣な顔でやってきて言った。
「今日、予備校帰りに歌舞伎町ののぞき部屋に行った」
Mが言うにはガラス張りの部屋の中には女の子が気だるそうに座っており、音楽がかかると勿体を付けながら服を脱いでくれる内容だったそうだ。
自分のいる部屋には隙間が開いていて、そこからチップの現金を投入すると向こうの部屋の女の子が近くまで寄ってきてくれて色々と見せてくれるというものだったらしい。
「二度とあんな所には行かん」
その部屋でかかっていた曲がこれだったらしく、しばらくの間は聴くと嫌な顔をしていた。
Boys Town Gang | Can’t Take My Eyes off You(1982)