1976年の夏、中学時代の友人たちと千葉に海水浴に行く費用を捻出するため、晴海で行われた「スーパーカー・ショー」(正式な呼び名は覚えていない)でバイトする事になった。
当時、スーパーカーは空前の人気で、ショーも3日か4日かぶっ通しで行われるという大イベントだった。
下の姉に紹介してもらったバイトで晴海の会場の飲食を仕切っている某有名企業のブースでの調理補助だった。
高校1年かそこらで調理補助なんてやった事ある訳もなかったが、何しろ破格の日給1万円が魅力だったので一も二もなく飛びついた。
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当日、自分はスーパーカーを舐めていた事に気付かされた。
とにかく人がひっきりなしに訪れる。
自分は焼きソバ屋の助手だったのだが、2日目からはペアというかメインの人が来なくなったので一人でブースを任される事になった。
・鉄板に油を引き ・朝の内に刻んでおいたキャベツを炒め ・搬入用の大箱に入ったままの麺をその上にどばーっと開け ・ほぐしたらすぐに水をかけ ・水分が飛んだらソースをいい加減にどぼどぼとかけて、さらに水分を飛ばす
汗だくになりながらこの作業を行う一方で、行列のお客さんのために鉄板の脇に退避させていた焼きそばを取り分け、500円を頂戴する。
朝から夕方まで一日中切れ目なく訪れるお客さんのために延々この作業を繰り返すだけで、スーパーカーの実物を見る時間なんて当然なかった。
レジなんてものも置いてなかったので、手提げ金庫に無造作に金を突っ込んでおいて閉場後に勘定をした。
途中で面倒くさくなって小銭は適当にポケットに入れていたので、結局日当は1万5千くらいだったかもしれないが、あの数のお客さんの相手を一人でしたのだから当然の報酬だったかもしれない。
とにかくその場を離れられず、昼食と午前午後の休憩時間だけ正社員らしき人に代わってもらって、会場の裏手にある休憩所で飯を食ったり、たばこを吸ったりするのだが、そこで出会いがあった。
「あなた、〇〇ちゃんの弟なんだって?」
声をかけてきたのは下の姉とよくこういった短期バイトで一緒になるという女子大生のお姉さんだった。
休憩所に行くたびにそのお姉さんを探すようになり、向こうも自分を見つけると前の席に座って話をしてくれるようになった。
真夏のアバンチュールを求めるための資金を稼いでいたのに、それ以前にどうにかなってしまうかもしれないぞ、3つ年上なんて大した年の差じゃない
よし、最終日にデートに誘おう
そう決心したら最終日、お姉さんは休みやがった。