共通一次元年

1979年は共通一次元年だった。

その1年以上前から学校で受ける試験も予備校の模試も共通一次対策として、「マークシートの記入の仕方」等の練習をして入念に準備を繰り返してきた。

 

1月13日だったか14日だったか、その日関東地方は大雪に見舞われた。
試験会場は少し離れた場所にある私立女子校だった。

会場のある駅でバンドメンバーと待ち合わせ、止まない雪の中をまるで遠足気分で歩いていった。

 

試験の内容はよく覚えていないという事は可もなく不可もなくだったのだろう。
一つだけ覚えているのは、高校に入学した時に写真部で世話になった2つ上の先輩がいたので、
「〇〇さーん」と声をかけたら、
「いやだなあ。さん付けなんて。そっちこそ先輩じゃないですか」
と言い返された。

後になって「敬語でしゃべりかけられる=年上=浪人」って事が露呈するから嫌だったというのが理解できた。
ごめんね、先輩。

 

でも自分とバンドメンバーの共通一次は初日が終わってからが本番だった。

会場ではタバコが吸えなかった(ので帰りに駅前の喫茶店で一休みしようぜという事になった。

確か「サヴォイ」という名前の店だったと思う。

雪のせいか店内にほとんど客はおらず、バンドメンバーと仲良し計6人で奥の2席を占拠する事ができた。

 

席に着いても皆しばらくは無言のままだった。

試験の疲れや反省からくる沈黙ではなく、座った目の前にある二つのテーブルが「スペースインベーダー」の筐体だったからだ。

 

インターネットなどない時代、「スペースインベーダー」というゲームがヒットしつつあったのは風の噂に聞いていたが、目の当たりにするのは初めてだった。

とりあえずコーヒーを注文してから一服し、何故か皆で遠慮し合う中、最初の勇者が動いた。

「おれ、100円あるからやってみよっかなー」

彼が一面を消せず、ゲームオーバーになるのを見届けた後はもう歯止めが利かなかった。

入れ替わり立ち代わりプレーを続け、手が空いている者は画面を見ながらタバコを吸い、応援をし、店員さんに両替を頼んだ。

気が付けば店の閉店時間が迫っていた。

 

なかなか一面を消せないで熱くなっていた中、誰かが言った。

「明日、2日目だよな」

全員にやりと笑った。

そうだ、明日もここで「インベーダー」ができる

 

共通一次の結果は推して知るべしだった。

 

Benny Goodman & His Orchestra | Stompin’ at the Savoy