山口屋洋菓子店

小学生の一時期だけ、絵がものすごく上手だった。
授業で描いた絵がことごとく展覧会で入選や特選となり、家には賞状が溢れ返った。

中でも小学校4年の時に描いた絵は全国展覧会まで進み、そこでも特選となって、作品は全国を巡回した。

 

一年くらい経ったある日、学校から例の絵が地元に来ていると連絡があった。
展示されている場所は埼玉会館、生まれて初めて行く県庁所在地だった。

父親は特殊な地方公務員のためそちらに赴任していた事もあったらしく、珍しく家族サービスとばかりに全員を連れて浦和の街を案内してくれた。

 

絵を見終わった後、その日の主役だった自分のためにと連れて行ってくれたのが浦和駅の前にあった「山口屋洋菓子店」だった。

父親が店の人間に「主人はいるか」というような事を言い、店の奥からご主人らしき男性が出てきて、父親に丁寧に挨拶をした。
父親も挨拶を返すと、本日の主役である自分を隣に引き寄せて一説ぶち始めた。

今日はこの息子の絵が全国で特選になったので観にきた。
いずれは洋画家をしている叔父に弟子入りさせるつもりだ。

おいおい、そんな話一回も聞いた事ないぞ。