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20XX.7.14 門前仲町
門前仲町の5番出口で待っていると美夜がやってきた。
「こっちよ」と美夜は言葉少なにぼくを深川の方に引っ張っていった。
「ここ」
立派な門構えの屋敷の前で立ち止まった。かつては宿屋か何かだったのだろうか、風格を感じさせる木の門をくぐると敷石が玄関まで続いていた。
「どうしたの?」とぼくが屋敷の中に入らないのを見て美夜が言った。
やっぱり止めよう、こんなの。美夜を信じるよ。だから止めよう――
「ここまで来てどうしたのよ……でも、あたしを信じてくれるなら――」
美夜が途中まで言いかけた時、真っ暗な玄関の戸ががらがらと開いた。
「どちら様?」と言い、玄関から顔を出したのは和服を着た小柄な中年女性だった。
「あ、あたしよ、おばさん、美夜」
「美夜ちゃん……で、そちらの方は」と言って婦人は薄明りの中で目を凝らした。「セキ……ううん、そんなはずはないわ」
「おばさん、この人はジウランさん、ジウラン・ピアナさんよ」
「まあ、デズモンドさんの?」
「そう、お孫さんよ」
「大きくなったわね。あたしはまたセキが戻ってきたのかと思っちゃって。さあ、お上がりなさい」
ぼくは婦人の一言に衝撃を受けた。
――ぼくは幼い頃、この人に会っている。わずかに残った記憶の中の優しかったお姉さん……なのに名前を思い出せない。
それよりもこの人にもしもの事があったら大変だった。ぼくは我に返り、もう帰らなきゃと言った。
「おばさん、せっかくだけどまた来るわ。今度来た時に色々とお話聞かせてちょうだい」
「そう、残念ね。ジウランさん、また来てね。きっとよ」
急いで屋敷を後にした。
「結局会っちゃったね」と美夜が言った。「で、どうだった?」
どうだったって――
「この人は死ぬなとか死なないなとかそういう直感めいたものはないの?」
必死に考えた。中原さんの時、シゲさんの時、そして今……出た結論は、あの人は死なない。
「あなたの直感を信じるわ。さあ、ご飯食べましょうよ」
美夜、今の人は――
「そのうちわかるわよ。また遊びに行ってあげて」
美夜は夜の町に消えた。
登場人物:ジウランの日記
名 Name | 姓 Family Name | 解説 Description |
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ジウラン | ピアナ | 大学生。行方不明になった祖父のメッセージに従い、『クロニクル』という文書を読み進む | |
デズモンド | ピアナ | ジウランの祖父 一年前から消息不明 |
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能太郎 | ピアナ | ジウランの父 ジウランが幼い頃に交通事故で死亡 |
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定身 | 中原 | 文京区M町にある佐倉家の屋敷の執事 | |
美夜 | 神代 | ジウランをサポートする女性 都立H図書館に勤務 |
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菜花名 (ナカナ) | 立川 | ジウランのガールフレンド | |
治 | 西浦 | 元警視庁勤務 美夜と関係があるらしい |
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大吾 | 蒲田 | 元警視庁勤務 現在は著名な犯罪評論家 |
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シゲ (二郎) | 重森 | 伊豆の老人ホームにひっそりと暮らす |