9.7. Story 1 友達

 Story 2 メサイアとセカイ

1 ズベンダの願い

 その日、銀河はかつてない危機に直面した。
 銀河を結ぶ通信ネットワーク、ORPHANが突然に稼働を停止したのだった。

 最初にそれに気付いたのは路線を定期運航するシップだった。
 自動操縦ができなくなったため、手動航行に切り替えてその場を凌いだが、復旧の目途が立たず、とうとう運休となった。
 その頃には連邦の各機関、企業、一般の商店に至るまで業務に支障をきたすようになり、ORPHANに依存していた多くの星の文明は機能停止に陥った。

 本来停止しないはずのORPHANのダウンに対応したのは生みの親とも言えるフェデラルラボだった。
 ラボの精鋭たちは不眠不休で復旧を目指したが、原因がわからないまま、数日が過ぎた。

 
 『上の世界』のリンの下を創造主ワンデライが訪ねた。
 ワンデライは相変わらず少年のような風貌で快活そうに見えた。
「やあ、リン」
「あ、ワンデライ。元気そうだね」
「うん。いよいよ僕との勝負だってのを伝えに来たんだ。準備はできてる?」
「うーん、準備も何も、君が何を引っ張り出してくるか、見当がつかないんじゃ対策のしようがないよ」
「それはそうだね」
「でも龍も精霊も巨人も出番は終わったから、後は異世界の獣くらいしか思い付かないよ」
「僕は異世界の獣を預かってるだけで、自分で造ったものじゃないからね。そんな物、持ち出さないよ」

「じゃあ何?」
「それはね、『人工生命』とでも言えばいいのかな」
「……それで合点がいったよ。ORPHANがダウンしたのは君の仕業だね?」
「そう。間もなくORPHANは再起動するけれど、人工生命として暴走を始める」
「ある意味今までで一番きつい攻撃だね。対応を間違えれば銀河は崩壊する」
「慎重に戦ってほしいんだ。君はそれに対抗できる物を幾つか知ってるはずだよね」
「……なるほど。候補はある。ワンデライ、ありがとう。早速準備に取り掛かるよ」
「リン、期待してるよ」
「期待に添える『彼』を連れ出せればいいんだけどね」

 
 《虚栄の星》、ヴァニティポリスのテンペランス地区に本拠を構える金融機関トリリオンの総裁、ズベンダ・ジィゴビッチは病の床に伏せっていた。
 同じ地区にある総合病院の最上階の個室で横たわるズベンダの下を、ズベンダに引き取られ、子供同様に育てられたナカツ、ムナカタ、ツクヨミの三人の若者、カナメイシのレネ・ピアソン、そして新・帝国の覇王、マリスが訪れた。

「ズベンダ、調子はどう?」
 ナカツが声をかけると痩せこけた老人はベッドの上で上半身だけ起こして、にっこり微笑んだ。
「やあ、君たちか。今日は天気もいいし、すこぶる上機嫌さ」
「ネットワークORPHANがダウンしたから、もっと大変な事になってるかと思ったよ」
「安心したまえ。ORPHANなしでも医療は行える。それよりもレネ。経済に与える影響はどうなっている?」
「私たちはルーヴァの決済が中心なのでさほど影響は受けていない。GCU決済については当面ダウン前のレートを適用するとの事だ」
「ふん、どうなっても知らんぞ」
「しかしシステムダウン中にレートが急変動するとも思えない」
「さて、どうかな。マリス、この間、君が話してくれたようにこれも創造主の戯れの一環だとしたら、あらゆる事態を想定しておく事だ」
「肝に銘じておくよ」

 

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