ジウランの航海日誌 (12)

 Chapter 5 ドノス襲来

20XX.9.XX 瘴気

 ダーランで合流したぼくたち御一行は葵たちが待つネコンロ山の麓に戻った。
「遅い。何をしておったのじゃ――」
 葵は七人の新しい顔ぶれを見て、途中で言葉を止めた。
「……そのお方たちは?」
「約束したろ。こっちがジュネ、アダン、ニナ。それにジェニー、コメッティーノ、ゼクト、リチャード。この銀河の英雄たちだ」
「わらわは葵じゃ。いよいよ人も揃い、皆で《武の星》に乗り込むのじゃな」
「そうよ、デズモンド」とジェニーが言った。「早く行きましょうよ。旦那の顔を早く拝みたいのよ」

「待てよ。その前にやらなきゃならねえ事があんだよ」
 じいちゃんは離れた場所に置かれている大きな木の箱を指差した。箱の回りの地面の草は瘴気の影響だろうか、早くも少し茶ばみ出したように見えた。
「何、あれ?」
「あれか。『魔王の鎧』だよ」
「商人から聞いた事があるな」とゼクトが言った。「確か《魔王の星》にあるという話だったが」
「ああ、だが星は覇王に滅ぼされた。で、覇王の手に渡る前にそこにいる陸天が決死の思いでここまで運んできたんだよ」
「かなり危険な代物だと聞いているぞ。どうするつもりだ?」
「決まってんだろ。正統な持ち主がいるんだからそいつに着てもらう」

 ぼくと美夜、それに陸天を除いたその場の全員が互いの顔を見回した。
「デズモンド、何言い出すの。ここには魔王なんていないわよ――早く出発しようよ」
「そうさ。魔王はいないが暗黒魔王を造り上げた人間がここにいる」
「おいおい、デズモンド。どうかしちまったんじゃねえか」

 
 じいちゃんはコメッティーノの言葉を聞き流して、その背後にいたリチャードに近付いた。
「リチャード、お前さんだ」
「こ、こんな時に冗談を。私が魔王のはずなど」
「言ったろ。誰も魔王だなんて言っとらん。だがお前さんが暗黒魔王を産み出した」
 コメッティーノも他の皆も首を傾げた。つい最近、真相を知ったぼくと美夜を除いては。
「デズモンド殿。冷静にお考え下さい。現在に生きる私が何故、過去の魔王を産み出す事などできましょうか」
「――めんどくせえな。説明した所でわからねえだろうから、陸天、封印を解いちゃくれねえか」

 
 ヌニェス、ゼクト、じいちゃんとぼくが蓋を開ける役目となった。
「いいか、蓋が開いたらすぐに逃げ出せよ。まともに瘴気を浴びたら《武の星》に行くどころじゃなくなるからな」
 陸天が何事かを唱えながら慎重に木箱の護符を剥がし、ぼくらは四つの角を持ってそっと箱の蓋を開けた。
「せーの……それ、離れろ!」

 一斉に逃げ出し、少し離れた場所で様子を窺っていると、箱から黒い湯気のようなものがゆらゆらと立ち昇るのが見えた。
 ぼくは勇気を奮い起こして箱の中身を覗き込もうとにじり寄った。
「ジウラン、少しにしとけよ。長い間瘴気に浸かると魔王に取り込まれちまうぞ」
 ぼくは大きく頷いて箱の中を一瞬だけ覗いた。全身を包み込む赤黒く変色した鎧兜がそこにはあった。

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