『水に棲む者』の外見は多岐に渡る。
人間と変わらない姿もあれば、魚にしか見えない者もいる。甲殻類に近い者、軟体動物、棘皮動物、刺胞動物……様々な生物の進化の過程と結果がそこにはあった。生物は海から生まれたというのは事実のようだった。
この多様な水の中の世界は統一された試しがなかった。ようやくワンクラールの父の時代になり、人間に近い姿の者と魚に近い姿の者が協力し合う事に合意し、現在の勢力の基盤が確立された。
ワンクラールは何代目かの王だった。王とは言っても甲殻類や軟体動物の中には現在の体制を認めない者が多く、ワンクラールは非常に不安定な状態で支配地の経営を行わなくてはならなかった。
最初に行ったのは、自らの支配体制を強化する事だった。そのために『白花の海』の最大勢力であった条鰭類の一族からローミエという名の妻を娶った。その三千日ほど前に最愛の妻マイアを失っていたので、この結婚は期を心得たものだと支配地中から祝福された。そして世継ぎとなるべきレイキール王子が誕生し、その支配は安定したように見えた。
次に行ったのは、不満の多い甲殻類の一族を重臣に登用する事だった。ワンクラールは急速に頭角を現していたヤッカームという名の実力者を大臣に迎え入れた。
ヤッカームは正体不明の男だった。ある日突然、白花の海に現れ、混沌としていた甲殻類の界隈をまとめ上げた。彼自身の外見は人間と同じで甲殻類の外見はしていなかったが、本人曰く、サソリの末裔なのだそうだ。
ヤッカームは、上辺はワンクラールに忠実に振る舞ったが、裏では水に棲む者の王の座を奪い取るべく画策していると噂されていた。『地に潜る者』と通じる一方で、王宮の主だった人々を次々に籠絡していき、最近では王后ローミエまでもがヤッカームの甘言に乗せられていた。
ワンクラールは愚鈍ではなかったが、ヤッカームはより狡猾だった。ワンクラールはローミエの勧めるまま、先妻との間にできた一人娘、ナラシャナをヤッカームに嫁がせる決意を固めた。
目次
1.1.3.1. 白花の海
1.1.3.2. 巨大なるブッソン
1.1.3.3. 再会
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