第十八話:一人きりの旅

 タピーは一人でシュマナ山の北の門のところにやってきます。
「おお、やはり一人でテンチーまで旅立つのか?」
 北の門の門番が声をかけます。
「おじさん」
 タピーは門番に言います。
「もしかしたらぼくの後を追ってベンガたちが来るかもしれないんだけど……ぼくはどうすればいいのかな?」
「そうなったらそうなったじゃないか」
 いかつい門番は顔に似合わない優しい声です。
「お前をそれだけ思ってくれている人がいるってことだろう。だからおれはその人達を止めたりはしないぞ」
「そうだよね、おじさんの言う通りだよ」
 タピーはにこりと微笑みます。

「だって、彼らはぼくの友達なんだから」

 いよいよタピーはシュマナ山の外に出ます。
 この先タピーは、はるかテンチーの地まで歩いていくのです。
 果たして、タピーはラーゴの気持ちを改めさせ、人々を救うことができるのでしょうか。

 

 タピーはシュマナ山を降りて、テンチー方面へと向かう山道を歩き出します。しばらくするとジャックが追いかけてきて上空から話しかけます。
「よお、本当に良かったのか。ベンガたちを置いてきちまって」
「しつこいなあ、ジャックは」
 タピーが空に向かって言います。
「ベンガもビーガもシャンティも、みんなみんな願いは叶ったんだ。ぼくだけのわがままにこれ以上付き合わせるわけにはいかないんだよ」
「だ・か・ら」
 ジャックは力をこめて言います。
「お前はわかってないっていうんだ。みんな喜んで旅を続けようって言ってたじゃねえか。大体よ、今悪い奴らに襲われたらどうするつもりだよ。ベンガやビーガの力もシャンティの知恵もねえんだぞ」
「えっ、でもテンチーに着けばまた誰かと知り合いになれるでしょ?」
「そんなことだろうと思った。だ・か・ら、お前はだめなんだ。ここからテンチーまでって言ったらジャングルからコンリーヤまでと同じくらいの距離があるんだ」
 タピーは立ち止まります。
「えー、ジャック。どうしてそれをもっと早く言ってくれないのさ。すぐにテンチーに着くと思ってたよ」
 ジャックがあきれかえったように言います。
「みんなの話を聞いてりゃわかりそうなもんだ。まあ、今更言っても手遅れだな」
 そう言うとジャックがタピーの肩に降りてきます。
「それよりもこの道の先でよ、怪しげな奴らが待ち伏せしてるぜ。さて、タピーさんのお手並み拝見といこうかね。じゃあな」
 ジャックは空高く飛んでいってしまいます。
 タピーは目を丸くして小さくなるジャックの姿を追います。
「何だい、ジャック。冷たいぞ。逃げちゃうなんて……でもぼく一人で何とかしなくちゃいけないんだもんな。よおし、見てろよ」
タピーはシュマナ山を降りて、テンチー方面へと向かう山道を歩き出します。しばらくするとジャックが追いかけてきて上空から話しかけます。
「よお、本当に良かったのか。ベンガたちを置いてきちまって」
「しつこいなあ、ジャックは」
タピーが空に向かって言います。
「ベンガもビーガもシャンティも、みんなみんな願いは叶ったんだ。ぼくだけのわがままにこれ以上付き合わせるわけにはいかないんだよ」
「だ・か・ら」
ジャックは力をこめて言います。
「お前はわかってないっていうんだ。みんな喜んで旅を続けようって言ってたじゃねえか。大体よ、今悪い奴らに襲われたらどうするつもりだよ。ベンガやビーガの力もシャンティの知恵もねえんだぞ」
「えっ、でもテンチーに着けばまた誰かと知り合いになれるでしょ?」
「そんなことだろうと思った。だ・か・ら、お前はだめなんだ。ここからテンチーまでって言ったらジャングルからコンリーヤまでと同じくらいの距離があるんだぞ」
タピーは立ち止まります。
「えー、ジャック。どうしてそれをもっと早く言ってくれないのさ。すぐにテンチーに着くと思ってたよ」
ジャックがあきれかえったように言います。
「みんなの話を聞いてりゃわかりそうなもんだ。まあ、今更言っても手遅れだな」
そう言うとジャックがタピーの肩に降りてきます。
「それよりもこの道の先でよ、怪しげな奴らが待ち伏せしてるぜ。さて、タピーさんのお手並み拝見といこうかね。じゃあな」
ジャックは空高く飛んでいってしまいます。
タピーは目を丸くして小さくなるジャックの姿を追います。
「何だい、ジャック。冷たいぞ。逃げちゃうなんて。……でもぼく一人で何とかしなくちゃいけないんだもんな。よおし、見てろよ」

 

 タピーはそれまで歩いていた山道ではない脇道を探し、少し下ったところに人がやっと一人通れそうな砂利だらけの道とは言えないような道を見つけました。タピーは音を立てないようにそっと歩いてゆきます。やがて上の本道の方からがやがやとした声が聞こえてきます。
「おい、本当だろうな、小僧が一人旅してるってのは?」
「本当ですよ、お頭。あっしがこの目で確かめましたから」
「この道はコンリーヤからの一本道。こんなところを通る人間なんてそうそういるもんじゃねえから、坊主かサーカスの子供か、化け物かもしんねえな。いずれにせよとっ捕まえれば何かの足しにはなるだろう。どうにもなんねえ時は、なあに、食っちまえばいいんだ」
 その言葉に続いて歓声が上がります。
 これを聞いたタピーはごくりと生唾を飲み込みます。今までよりも一層慎重に歩を進めますが運悪く砂利道に足を取られてしまいます。

 ずざざざざ

「おい、誰か下にいるんじゃねえか。おめえら、見て来い」
 タピーは恐怖のあまり動けなくなりました。こわごわ上を見上げると人相の悪い顔の男たちがのぞきこんでいます。

 

 タピーは男たちに捕まって上の山道に引きずり出されます。
「やい、小僧。こんな山ん中で何してるんだ?」
 お頭らしき男が尋ねます。
「何って」
 タピーは正直に答えることにしました。
「旅だよ」
「こんな何もない場所を旅してるってことは、お前、坊主かそれともサーカスの団員か?」
「どっちでもないよ。ただの……人間だよ」
「はあん、怪しいもんだな。坊主でもなけりゃサーカスでもない、ってことは小僧、化け物だろ、違うか?」
「……」
「へっへっへ、まあいいや。化け物だったらそれなりの使い道もある。もしも使えねえ時にはお前を食っちまうって寸法だ」

 タピーは悲しくなりました。一人でテンチーに行ってみんなを助けると言い張って山を降りたのに、降りたすぐの山道で旅が終わってしまうのはあまりに情けなかったのです。
「ああ、やっぱりベンガたちがいないとぼくは何もできないんだなあ」
「何、ぶつくさ言ってんだ」
 お頭がタピーを疑わしげに見ます。
「おい、野郎共、この小僧を縛り上げてねぐらに引き上げるぞ」

 

 人相の悪い男たちが荒縄を手ににやにや笑いながらタピーに近づきましたが、タピーに触れるか触れないかのうちにバタリと倒れてしまいます。
 慌てふためいて辺りを見回す男たちの一人が叫びます。
「あっ、お頭、そこの岩の上に」
 その声につられてタピーも傍らの岩に目をやります。岩の上には男たちを睨みつける美しい白い毛並みの若いトラ、そう、ビーガがいたのです。
「ビーガ、来てくれたんだね」
「兄さん、話はあとでゆっくり」
 ビーガは目にも止まらぬ速さで岩の上から男たちに踊りかかっていきます。あっという間に倒される男たち、気がつけばお頭一人を残すのみとなりました。
「なあ、小僧」
 お頭はいかつい顔に似合わないか細い声を出します。
「あのトラはお前のトラか。だったら、頼むから命だけは助けちゃくれねえかい」
「みんな気絶してるだけだよ」
タピーは言います。
「でもビーガが本気になる前にここから逃げたほうがいいと思うよ」

 

 ほうほうの体で逃げていく男たちを横目に、タピーはもじもじしながらビーガに近づいていきます。
「もうすぐ父さんやシャンティ姉さんも追いつくはずですよ」
 ビーガはにこりと笑います。
「ジャックさんが伝えに来てくれなかったら兄さんの居場所もわからなかったですよ」
「……ねえ、ビーガ」
 タピーは尋ねます。
「ぼく、どんな顔してみんなに会えばいいんだろう」
「いつもと同じでいいんですよ」
 ビーガは優しく言います。
「みなさん、わかってますから。兄さんがみんなに迷惑をかけちゃいけない、一人で行かないといけないって思ったその優しさを」
「ぼく、一人じゃ何もできないんだなあ。改めて君やみんなが大事な友だちだってことがわかったよ」
「兄さんは立派ですよ。兄さんがいなけりゃ父さんもぼくも姉さんも、そしてジャックさんもここでこうしていられなかったんです」
 ビーガが耳をぴくりと動かします。
「あ、どうやら父さんたちがやってくるようですよ、さあ、兄さん、迎えに行きましょう」