シンハ王の手配してくれた船に乗り大海原を進むタピーたち。
「ベンガ、海ってすごいねえ」
ベンガに代わってシンハ王が答えます。
「タピーは海に出るのが初めてか。だがこの世界にはもっと広い海もあるというぞ。」「えっ、この海だってどっちを見回してもジャングルが見えないくらい広いのに」
ベンガが微笑みながら言います。
「確かに海は広いな。シンハ王、こうしていると海は平和ですな」
シンハ王はちょっと顔をしかめます。
「平和なのは私が治めているこの付近だけだ。海には素敵なことも多いが恐ろしいことも多い」
船の舳先に留まっていたジャックが情けない声を出します。
「ああ、ずっと海見てたら気分が悪くなってきた。おいら、しばらく休むよ」
『ランカの都』へ向かう海の真っ只中。シンハ王がタピーたちに言います。
「さて、私が一緒に行くのはここまでだ。この先は支配するもののいない未開の海。お主らだけで『ランカの都』を目指すのだ」
ベンガがお礼を言います。
「船の操縦も覚えましたから大丈夫でしょう。シンハ王、本当にお世話になりました」
タピーもぺこりと頭を下げます。
「王様。帰りにまた寄るからね」
シンハ王は嬉しそうな顔をします。
「うむ、旅の話を是非聞かせてくれ。それにしても、お主らだけを行かせるのは非常に心苦しいが、事故のせいか、最近ではランカまで行こうという船乗りも少なくなってしまったのだ」
シンハ王と別れた後も相変わらず穏やかな大海原。
「こんなに平和な気持ちったらないよねえ」
ベンガはあくびをしながら答えます。
「ああ、たとえ海賊が現れたとしても、私がいるから心配ないぞ」
タピーは笑いながら言います。
「そうだよね。ベンガはすっごく強いもんね。ところでジャックは?」
「船酔いしたらしくて、下の寝室で寝ている。鳥の船酔いなど聞いたことないがな」
タピーは笑い転げます。
「ラーラワティさまがホーライから戻ってきたって言ってたから、さぼる理由が必要なんじゃないの」
「まあ、ラーラワティ様に何かをお願いすることもないだろうがな」
船の舳先に上がる白波を見ているタピー。
「あれ、あんなところに島が見える。あれは一体何ていう島?」
ベンガは船を操縦したまま答えます。
「おかしいな。『海人の国』と『ランカの都』の間にはあのような島はないはずだが」
「おかしいね。確かに島が見えるんだけどな。ねえ、ちょっと来てよ」
ベンガは舳先にやってきます。
「うむ、確かに島だ」
「あ、何かこっちに来るよ」
一艘のはしけがゆっくりとタピーの乗っている船のそばで止まり、はしけに乗っている陽に焼けた若者が大声を張り上げます。
「『海人の国』から来た方でいらっしゃいますか。お願いがあるのですが。あそこに見える島で作業をしておりますが、人手が足りないのです。手伝ってはいただけないでしょうか」
タピーは興味津々です。
「作業って。一体何の作業なの?」
ベンガは疑わしげな表情です。
「あなたはあんな島で一体何をしているのですか?」
若者は、ちょっと改まった声を出します。
「お疑いになるのもごもっともです。実は作業というのは海をかきまぜているのです」
「えっ、海をかきまぜるって」
若者はさわやかな笑顔を見せます。
「はい、大きな棒を使って海の水をぐるぐるとかきまぜるのです。かきまぜ続けていると、やがてそこに不思議なことが起こるのです」
ベンガが尋ねます。
「不思議なこととは何ですか」
若者は急に声をひそめます。
「あなたたちが悪い人間だとは思いませんが、それを聞けばどんなに良い人間でも悪い心が生まれてしまい、一人占めしたくなってしまうくらい素敵なものなのです。実際に来ていただいてご覧になればわかります」
タピーは不思議なことが知りたくてたまりません。
「ねえ、ベンガ。ちょっと行ってみようよ。手伝うって言っても、そんなに長い時間じゃないんでしょ」
若者はまたもやにこりと笑います。
「ええ、ほんのちょっと手伝っていただくだけです。お時間は取らせません」
「仕方ない。ではその島まで案内していただけますか」
ベンガはしぶしぶ従いました。
若者の漕ぐはしけの後について島に向かうタピーとベンガ。
「さあ見えてきました。あの島の裏手で作業しているんです」
タピーはなんだか頭がぼぉっとしてきます。
「この海、ミルク色だよ」
ベンガもやっぱり頭がぼぉっとしているみたいです。
「ああ、本当だな。不思議な色の海だな」
若者は相変わらずにこにこしています。
「不思議でしょう。でももっと不思議なことが起こるんですよ。さあ、もうすぐ着きます」
船はゆっくりと島に着きます。
「小さな島ですから十分も歩けば反対側に出ます。では行きましょう」
五分くらい歩いたころでしょうか、何やら物音が聞こえてきました。
「ほら聞こえるでしょう。たくさんの人が作業してるんですよ」
若者に案内され、島の裏手にたどり着いたタピーとベンガ。そこでは何人もの人が、黙々と大きな十字型の押し棒を押しています。
タピーがぼんやりと尋ねます。
「あの人たちは何をやっているの?」
「あの押し棒の下に柱が伸びていて海をかきまぜているんですよ。さあ、あなたたちも早くあそこに行って、一緒に棒を押してください」
ベンガは何か言おうとしましたが、うまく考えがまとまらないようです。タピーたちはそのままのろのろと押し棒を押す人の群れに近づいていきます。
人の群れの中から声があがります。
「あっ、あなたたち、いけない。この棒に近づいちゃいけない」
「あ、あなたはサーカスの親方。一体どうしてここに」
タピーとベンガは押し棒を押す人の群れの手前で立ち止まります。すると後ろに立っていた若者がタピーたちを突き飛ばしました。
「わあ」
タピーとベンガはよろけて、人の群れに飛び込んで思わず押し棒に触ってしまいました。
若者がさっきまでの丁寧な口調とはがらっと変わって、乱暴に言います。
「いいから早く棒を押しな」
ベンガが言います。
「何をするんだ。危ないじゃないか。親方、何でまだこんなところにいるんですか」
親方は悲しげな顔をしています。
「ああ、あなたたちはついに棒に触ってしまったね。この棒に触ったら、二度と手が離れなくなってしまうんだよ」
若者がからからと笑います。
「その親父の言う通りだ。ここに来たものは二度とここから出られないんだよ。押し棒には偉大なるラーゴ様の魔法がかかっているから、絶対に手が離れないんだよ。お前たちは死ぬまでその棒を押し続けるってわけだ。な、不思議なことが起こったろ」
「何を企んでいるんだ」
ベンガは力いっぱい手を離そうとしましたが、にかわで固めたように離れません。
「だから海をかきまぜるんだよ」
タピーも手を離そうとしますが、どうしても手は離れません。
「ここにいる人たちはみんな君がだまして連れてきたの。ひどいことをするね」
若者は鼻をふんと鳴らしました。
「アムリタを生み出すためには、大勢の力が必要だ。ラーゴ様が世界の王となるためには、アムリタが必要なのだ」
ベンガは棒を壊そうと体当たりをしながら、若者に尋ねます。
「アムリタとは一体何だ」
「どうせお前たちは逃げられないのだから教えてやろう。アムリタは飲めば不老不死になる飲み物なのだ」
タピーはよくわからないといった表情で尋ねます。
「ふろうふし?そんなものになってどうするの?」
「不老不死になれば、世界中の富を永遠にその手にできるではないか」
ベンガは憐れむような声で言います。
「間違っているぞ。不老不死になったところで幸せなものか」
「お前らに何がわかる。ラーゴ様は神よりも偉いのだぞ。とっとと海をかきまぜろ」
とうとうタピーとベンガは手を棒から離すのをあきらめ、二人並んで海をかきまぜる棒を押し始めるのでした。
ぎらぎらと照りつける太陽の下で、言葉もなくうなだれながらただただ棒を押す人々。
タピーとベンガもその中で棒を押します。休もうとしても、手が棒から離れないのでずるずると引きずられてしまい、結局は棒を押し続けなければならないのです。
ぎし、ぎし、ぎし
ベンガがタピーに声をかけます。
「大丈夫か」
「うん、ぼくならだいじょぶ。さっきうとうとして、引きずられちゃったけどね。それより他の人たちが心配だよ。ぼくたちより長い間この棒を押してるんだから」
ぎし、ぎし、ぎし
「このままではみんな倒れてしまうな。あの若者に休みをくれるよう頼んでみよう」
サーカスの親方が隣で押し棒を押しながら言います。
「あいつはなかなか休憩なんてさせてくれませんよ。動けなくなった人はどこかに捨てられるだけで、また新しい人が連れてこられる、その繰り返しですから」
ベンガが大きな声で若者を呼ぶと、若者は薄ら笑いを浮かべて涼しい日陰からやってきます。
「どうした。アムリタが出てきたか」
ぎし、ぎし、ぎし
「この炎天下ではみんな倒れてしまう。休憩させてくれないか」
若者は馬鹿にしたような表情を浮かべます。
「まだ自分の状況がわかってないようだな。頼みごとをする権利などあると思っているのか。しかし、さすがに全員倒れてしまうのはまずいな。ではこうしよう。お前と一緒に来た小僧以外は休憩させてやろう」
タピーとベンガ以外の人々は棒から手が離せるようになります。その場で倒れ込む者、うめき声をあげる者、日陰まで這って行く者、サーカスの親方はベンガに耳打ちします。
「私が水を汲んできてあげますから」
ぎし、ぎし、ぎし
「私たちは心配ないから。親方は他の人たちと一緒にとにかく休んでください」
濃い影が砂浜に焼きつけられる灼熱の太陽の下。
ぎし、ぎし、ぎし
ベンガはぼんやりと思います。
「この棒から手を離すチャンスさえあれば、どうにかなるのだが。それにしてもこんな魔法をかけるラーゴとは何者なのだ」
ぎし、ぎし、ぎし
タピーはぼんやりと思います。
「そういえばジャックはまだ寝てるのかな。ジャックが気づいてくれればなあ」
照りつける太陽はぎらぎら。大きな押し棒はぎしぎし。
このまま冒険はおわってしまうのでしょうか。
ようやく日が沈み、粗末な食事も終わって、倒れこむように眠る人々。ベンガだけは、一時たりとも棒から手を離すことが許されていません。
「ベンガ、だいじょぶ?」
ベンガの元気な声が返ってきます。
「ああ、あの若者は私を恐がっていて、弱らせるつもりらしい。しかし、お生憎さまだ。トラだった頃は、三日や四日は何も食べずに平気で過ごしたものだ」
タピーはため息をつきます。
「ジャックはどうしちゃったんだろう。まだ船酔いで寝てるのかな」
「いや、いいかげんそうに見えるが、ジャックはしっかり者だ。今頃は私たちを必死で探し回っているだろう」
タピーは明るく言います。
「これが王様の心配してた事故だったんだね。見事にその通りになっちゃったね」
「タピー、お前はこんな時でも嬉しそうだな。お前を見ているとどんな困難も簡単に乗り切れる気がしてくるから不思議だな」
寄せては返す規則正しい波の音。働かされていた人々は死んだように眠りこけています。ベンガも棒につかまったまま、うとうとしています。
タピーはベンガが起きているのかどうか確認するように小声で尋ねます。
「起きてる?今ならあの男の人もいないし、逃げ出せるんじゃない?」
寝ているとばかり思っていた親方がひそひそ声で言います。
「無理ですよ。私も最初は逃げ出せると思ったのですが、潮の関係なのか、いくら泳いでもここに戻ってきてしまうんです」
ベンガも起きていたようです。
「それにしても親方、ラーゴというのはどんな男なのです」
「さあ、聞いたことのない名前ですなあ」
「世界の王になると言っているのだから、良い人間ではないでしょう……しっ。何かの音が聞こえます」
いきなり緊張が走る島の上。親方はきょとんとしています。
「えっ、私には何も聞こえませんけどね。波の音しかしていないですよ」
タピーが言います。
「あっ、本当だ。確かにかすかに聞こえるね。これは笛の音...かな」
親方はびっくりしています。
「あなたたちはすごい耳をしてますね。まるで野生の動物のようだ」
ベンガはちょっと苦笑いをします。
「うむ。確かに笛の音だ。だんだん音が大きくなっていないか」
「こっちに来るみたいだね。こんな島に住んでいる人がいるのかな」
「ラーゴの仲間ということもあるからな。タピー、注意しろよ」
青々と冴えた月の光を隠す雲。
「ラーラワティさまじゃあないよね。ラーラワティさまだったらヴィーナだもんね」
ベンガが遠くを見つめています。
「あれを見ろ。やはり誰かが近づいてくるぞ。親方、これから危険なことが起こるかもしれないから、寝たふりをしていてもらえませんか」
「わ、わかりました」
影はだんだんと大きくなっていきます。その影が親指くらいの大きさになった時に、笛を吹いているのがわかりました。タピーもベンガも緊張します。
黒い影はバナナの大きさになりました。
ぴろろろ、ぴろろろ
寝たふりをしている親方は言います。
「ああ、私にもやっと見えるようになりましたよ。まだ子供みたいですな」
ベンガは身構えます。
「親方、油断しないで。子供のようですが、こんな時間に子供が外にいるのはおかしいでしょう」
黒い影はココナッツの大きさくらいになって立ち止まります。笛の音も止み、あたりを見回しているようです。どうやら笛の音の主はタピーとベンガを見ているようです。
月の光を隠していた雲が途切れ、現れたのは青黒い顔をしたかわいらしい少年です。
「やあ、こんばんわ。いい月の夜だね」
タピーは答えます。
「こんばんわ。すてきな笛の音だね」
ベンガは警戒しているようです。
「君は一体誰で、こんなところで何をしているのだい」
青々とした月の光に照らされる少年が答えます。
「ぼくは牛飼いのクリンラ。君たちこそ何をしているの」
タピーがいきさつを話します。
「ふうん、そうなんだ。ここの海をかきまぜていると、アムリタが出てくるんだって。アムリタが出てくるのなら見てみたいけど、そうもいかないなあ。心配しないで。ぼくが助けてあげるから」
そう言うとクリンラはベンガの方に近づき、持っていた笛でベンガがしばりつけられている押し棒をとんとん叩きます。
「もうこれで大丈夫だよ」
ベンガが試しに手を離そうとすると、手は何事もなかったかのように棒から離れます。
「君は一体何者なんだ」
クリンラはいたずらっぽく笑います。
「このまま皆で逃げ出してもいいんだけど、その男を懲らしめてやろう。ちょっと耳を貸して」
翌朝、日が昇るとともにやってきたラーゴの手下の若者。
「さあ、今日も働けよ。おれは新しい人手を集めてくるからな」
太陽が真上に来るちょっと前に若者は戻ってきました。連れてこられたのはなんとクリンラです。
「今日も小僧だが、しょうがないな。ほら、さっさと棒を押せ」
背中を押されたクリンラは棒に触り、手が離れなくなったふりをしますが、もちろん、ラーゴの魔法はもう解けています。
「ははは、もう逃げられないぞ。死ぬまでここで働いてもらおうか」
クリンラも笑い出します。
「うふふふ、さて、ベンガ、タピー。休憩しようか。あの人に冷たいお茶でも持ってきてもらおうよ」
若者は自分の耳が信じられないといった表情をします。
「あっ、今何て言った。お前、自分の立場がわかっているのか」
クリンラはすました顔で言います。
「うん、わかってるさ。冷たいお茶を早く持ってこないと、ベンガが君の腕をひねり上げちゃうぞ」
怒りに我を忘れた若者がクリンラを殴りつけようと押し棒に近づいたその時、ベンガが素早く棒から離れ、若者の背後に回り肩をつかんで吊るし上げます。
若者は何が起こったのかよく理解できないようです。
「あれ、あれ、あれ。お前どうして棒から手が離せるんだ」
タピーも押し棒から手を離して言います。
「あーあ、疲れた。いい運動になったけどね」
クリンラはまだ笑っています。
「うふふ、ラーゴのへなちょこ魔法なんて効きやしないよ。アムリタは悪い奴になんか渡せないからね」
親方や他の人たちも棒から手を離して口々に言います。
「人の親切心につけこんでこんな目に合わせるなんて、許せないな。みんなで袋叩きにしてやろう」
若者を吊るし上げたまま、ベンガが言います。
「みなさん、怒る気持ちはよくわかるが暴力はよくない。この男はただの手下で、本当に悪いのはラーゴという奴なのだから」
空中で足をじたばたさせる若者。
「そうだよ。おれはラーゴに頼まれただけなんだ」
ベンガが若者を持ち上げたまま尋ねます。
「質問がある。ちゃんと答えろよ。ラーゴとは何者だ」
若者は情けない声で答えます。
「おれにもよくわからないよ。ダイエント大陸の『商人の港』でラーゴの子分に声をかけられたんだ」
クリンラが言います。
「ラーゴっていうのは、色んなところで悪さをしている奴なんだ。君が探しているケートゥとも関係あるみたいだよ」
ベンガは色めきたちます。
「ケートゥだって。おい、お前。ビーガのことを何か知っているのか」
ベンガは若者を締め上げます。
「そんなの知らないよ。く、苦しい。死んじゃうよ」
ベンガが太い二本の腕で若者をぐいっと締め上げているのを見て、タピーがたまらず言います。
「その人苦しそうだよ。何も知らないみたいだし、そのくらいにしときなよ」
ベンガは我にかえります。
「ああ、そうだな」
クリンラが言います。
「もういいかな。そいつはぼくが預るから。さあ、こんな所とっとと逃げ出そう」
親方や他の人たちは歓声を上げます。ベンガはぐったりとした若者を抱えたまま、海岸に向かって歩きます。
海岸には、みんなが元々乗ってきていた船が用意されています。
クリンラがタピーにウインクします。
「ジャックがぼくに知らせてくれたんだよ。ラーラワティのところに助けを求めに来てたんだけど、代わりにぼくが来たってわけさ。君たちに会いたかったしね」
ジャックが船の舳先で待っています。
「あ、帰ってきた。クリンラ様、ご無事でしたか」
「うん、君の友達もこの通り元気だよ。じゃ、ぼくはこいつを連れていくからね」
そう言うとクリンラは指を口に当てて、ぴゅーと吹きました。
空が突然翳ったかと思うと、それは途方も無く大きな鳥の翼でした。鳥はおごそかに言います。
「さて、帰りますか。おや、その若者は。」
「スパーダ、この人がみんなをだましてたのさ。まったく、ラーゴなんかに踊らされちゃってさ」
タピーもベンガもあっけにとられています。
「これは一体」
空を覆わんばかりのスパーダに乗るクリンラ。
「タピー、なかなか楽しかったよ。また会えるといいね」
「うん、色々ありがとうね。きっとまた会えるよね」
クリンラはベンガに言います。
「ベンガ、ぼくはビーガの行方を知っているけど、それを言うわけにはいかない。君の力で探し出さなきゃいけないんだ」
「いえ。無事でいることがわかれば十分です。いつかきっとめぐり会うことでしょう」
クリンラは満足そうです。
「君たちならシュマナ山にたどり着けるよ。また何かあったら、ぼくを呼べばいい」
スパーダが翼をはばたかせると、ものすごい砂煙で何も見えなくなり、再び目を開けた時には、空には誰もいなくなっています。
照りつける太陽と潮風の匂い。ベンガは思います。
「ディアンカーラ様にクリンラ様、皆が私たちの旅に関わってくださっている、大変なことになったぞ。」
『ランカの都』は目の前です。