1 エピローグ

5 パンクスの声明

 大吾の連絡を受けた警察、葉沢の率いる内閣調査室は直ちにアンビス幹部の身柄を拘束するべく行動を開始した。
 リーダーの村雲はすでに逃げ去った後だったが、その他のアンビス幹部は軒並み捕まり、チコの下に移送された。
 後に判明した事だが、唯一逃げ延びた村雲仁助はディック・ド・ダラスの支配するアメリカに逃げ込んだらしく、さすがに手が出せそうになかった。

 
 大打撃を受けた若手主体のアンビスの構成員、そして地下で生活するアンビスのメンバーは途方に暮れ、パンクスの天野釉斎に泣きついた。
 博愛主義者の釉斎は喜んで彼らを受け入れると共に、驚くべき行動に出た。

 
 その夜になり、新・帝国チコ将軍からの国内向け一斉ヴィジョンが入り、天野釉斎が紹介され、釉斎はそこで驚愕の内容を告げた。

 

【天野釉斎の発表】

 私は天野釉斎、都内で三代続く開業医をしている。
 どうかこれから私が話す内容に耳を傾けてほしい。
 1980年代に銀河連邦と帝国の争いを目の当たりにし、皆様は他所の星にも人間が暮らしている事を認識されたと思う。
 そして、当然の事ながら他所の星の者が秘かにこの星を来訪し、生活を営んでいるのではないかと考えられているだろうが、その推察は正しい。
 私はこの星にやってきた他所の星の人間が安全かつ快適に生活できるための組織、『パンクス』のリーダーを務めている。

 ではパンクスはどこにあるか?
 その答えはここ、東京の地下だ。
 私は戦後間もなく父からリーダーの座を受け継ぎ、以前からここに暮らす、或いは他所の星からやってきた人たちを世話してきた。
 地上に出る者、地下でひっそりと暮らす者、様々ではあったが、あなたたちの生活を阻害しないよう、平穏に暮らすのが目的だった。

 しかし時代は変わった。
 この星のこの国から幾多の英雄が誕生し、《ネオ・アース》という最も身近の他所の星との交流は普通に行われる、そんな時代になったのだ。

 ここに私は宣言する。
 パンクスは地下の閉ざされたコミュニティではなく、表立ってあなたたちと共に生きてゆく。

 差し当たって、この東京の地下に拡がる都市をあなたたちにも開放しよう。
 入口は東京都江東区Sにある『文月リン記念館』。
 そこに行けば地下都市を目の当たりにするだろう。

 

 釉斎の演説が終わるとチコが近付いて言った。
「先生、大丈夫ですか?」
「何、以前から考えていたんだよ。後はタイミングの問題だけだったが、『アンビス』が壊滅した今が良い機会だと思ってね。きっと上手くやっていける、いや、やっていかなければこの星はだめになる」
「そうですよね。ぼくたちが宇宙に出てからもう三十年以上が過ぎてるのに、この星では未だ限られた人しか『銀河の叡智』を享受できていない」
「三十年経てば世代は変わる。これからこの星を支えるのは、物心ついた時から《ネオ・アース》が存在し、銀河連邦を知っている子供たちだ。コンピュータや携帯と同じで、後付けで学んだ者たちとは根本的にリテラシーが違うんだよ」

「――ようやく銀河の仲間入りか。長かったな」
「チコ。君のような人間が辛抱強く努力した結果だよ。だがまだ油断は禁物だ。今回の地下の開放も慎重に進めなければならない。じっくりやるしかないさ」
「本当ですね。まあ、リンやマリスがいるから安心ですけど」
「だからこそ再び戦場になる可能性もある。私たちは試され続けているのさ」

 

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