1 エピローグ

3 繰り返される悲劇

 専内は藪小路の屋敷の一番奥の部屋の『転移装置』のスイッチを付けたまま、身じろぎ一つせず待機を続けた。

 何も起こらないようであってもそのままにしておけ

 果たしてそんな事が起こるのだろうか。細胞だけになった藪小路がこの装置を使って逃げ込んでくる事など。

 
 もしもそれが起こったとして、その後はどうなるというのだ。
 復活には長い年月が必要だという話を本人から聞いた事がある。当然数百年、数千年後には自分の寿命は尽きているし、藪小路が不在となれば今こうして手に入れた金や名誉も容易く失われてしまうのは明らかだった。

 雇い主の負けを想定して、こうして装置の前で待機する事自体がすでに自分の敗北を意味していた。
 こんな装置は自分には必要ない。後で責められたら勝利しか頭になかったと言って尻尾を振ればいいだけだ。
 
 専内は懐に忍ばせた拳銃を取り出し、静かに制御盤に狙いを付けた。
 数十年前、この装置を巡って糸瀬を狙撃したが、今度は装置そのものを銃撃する。
 あの時と同じように自分の人生の成功を約束しているはずだ――

 
 制御盤に銃弾が命中し、制御装置から火花が飛び散った。
 よし、これで――
 急いで部屋を出ていこうとした専内はどこかで低い音が聞こえるのを感じた。

 そして次の瞬間、屋敷に仕掛けられた非常用の自爆装置が一斉に爆発し、転移装置も屋敷自体も炎に包まれた。

 

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