目次
3 警告
早朝、東京湾に浮かぶ出張所にマリス、デズモンド、ジウランが集まった。
「セキたちも来たがっていたよ」とマリスが言った。
「あいつらの出番はもう済んでんだ。引き続き、このメンバーでいく」
「場所は元麻布でいいの?」
「間違いない。陽が高くなる前に着こうぜ。大吾たちにはもうあっちに待機してもらってる」
空を飛べないジウランをデズモンドがおんぶし、三人はまだ明けきらぬ空を西に進んだ。
聖堂の傍の大きな公園で降り、警察と最後の連絡を取る予定だったが、デズモンドは何かに気付いて大声を上げた。
「おい、何でここにいるんだ?」
公園の緑道の向こうからやってきたのはヘキだった。
「間に合ったわね」
「ん、ヘキ。お前、一人じゃねえな。隣にいるのはまさか……」
「デズモンド。そのまさかよ」
ヘキの言葉に続けてケイジがゆっくりと姿を現した。
「ケイジじゃねえか」
「――残念だな。お前を覚えていない」
「……記憶がないのか。ヘキにとっちゃ、なかなか辛いもんがあるな」
「そうでもないのよ。時折、何かの弾みで過去を思い出す事があるの。じゃなきゃ、ここに来ないわ」
「どういう意味だ?」
「これから戦う相手について。ケイジは立ち合った事があるって言ってたわ」
「おお、あん時だな。大空襲の夜」
「……大空襲。言われてみればそうだった気もするな。場所もここと同じような高台で……うむ、もう一人いた。それがお前か。デズモンドとやら」
「思い出してくれて光栄だぜ。あんたとわしは百年以上の付き合いだからな」
「そうか。では色々と教えてくれ――」
「ケイジ。それよりも相手の事を伝えないと」
ヘキが慌てた口調でケイジとデズモンドの会話を遮った。
「そうだったな。お前たちが戦おうとする相手は妙な術を使う。それを使われると足が動かなくなる」
「ああ、あの夜もあんた、そんな事言ってたよ」
「恐らくだが、立ち合う前から術をかけてくるに違いない。立ち合った時ではもう遅い、相手の術中に落ちている」
「なるほどな。参考になるぜ――なあ、ケイジ。一緒に来ねえか。ヘキはだめだが、あんたは戦っても問題ないと思うぜ」
「無論、同行させてもらうつもりだ」
「よっしゃ、決まりだ。今から警察の連中と最後の打ち合わせをすっから待っててくれ」
間もなく警視庁の蒲田大吾が現れ、デズモンドの下にやってきた。
「デズモンドさん、いよいよですね。やあ、マリス君、ジウラン君、久しぶり。それにヘキさんまで」
ジウランは妙な気分に襲われた。自分のよく知る人とは全く違う蒲田大吾がそこにいた。
「ん、どうしたい。ジウラン君」
「いえ、僕が知ってる蒲田さんはもう警察を辞めてたんで……ちょっと雰囲気が違うかな」
「この戦いが終われば、お前の仕事も大きく変わるぞ」とデズモンドが言った。
「ええ、僕の所だけでなく、葉沢さんもです。彼の部下の若いの……何て言ったっけな」
「白嶺くんだろ?」
「そうです。今日の応援のために送り込まれてきました。ところでこれだけの人数で乗り込まれるおつもりですか?」
「ああ、ヘキは参加しないから実質四人かな」
「デズモンドさん、計算がおかしいですよ。三人じゃないですか?」
「悪い、悪い。で、お前たちにやってもらいたいのは――」
「聖堂を包囲して怪しい人物が現れればこれを捕縛するんですよね」
「その通りだ。特にラーマシタラ、あいつだけは逃がすなよ。捕まえたらチコに連絡してやってくれ」
「例の司教殺しの犯人ですか?」
「そうだ。お前ら、特事の注意人物リストも今日で大分人数が減る」
「ぼくも肩の荷を下ろす時かもしれませんね」
大吾はそう言ってからジウランを見て微笑んだ。
「ああ、この間、専内署長に会ったぜ」
「えっ、デズモンドさん、顔見知りでしたっけ?」
「いや、お前が以前にちょろっと漏らした『ノンキャリの星』って情報でしか知らなかった」
「へえ、でもどこで会う機会があったんだろう……まさかあの事件の調査で強引に署に乗り込んだとか?」
「人を野蛮人みたいに言うな。藪小路の屋敷にいたんだよ」
「えっ、それはどう言う事?」
「さあな、少し考えればわかるだろ。異例の出世の理由が何だったか」
大吾は少し青ざめた顔で急いで携帯を手にして、電話をかけた。
「……だめだ。出ない……専内さん、どこに行ってるんだろう」
デズモンドは大吾の肩をぽんと叩いた。
「大丈夫だよ」
「でもあの人は警視庁でも一、二を争う射撃の腕です」
「心配性だな。そろそろ行くぞー」