9.7. Story 1 友達

2 新たなる生の起源

「セカイ。一緒に出かけようか」
「えっ、父さん。忙しくないの?」
「うん。ORPHANがダウンしてね。仕事にならないんだ」
「えーっ、本当?」
「シップのマニュアル操縦はできる?」
「もちろんだよ。いつもマニュアルで《迷路の星》まで行ってるんだから」
「そうだった。《智の星団》ではバインドは使用できないんだったな」
「そうだよ。早く行こう」

 
 セカイの操縦するポッドにロクが同乗した。
「定期巡航を始めてどのくらいになる?」
「うーん、一人で行くようになってから半年くらいかな」
「《機械の星》は?」
「行ってるけど会えないよ。でも向こうからはぼくを見てるのかも」
「ははは」
「何がおかしいの?」
「シャイなんだな。お前から積極的に声をかけないとだめだぞ」
「そうする」
「さあ、《蟻塚の星》だ。物資の用意はできてるな」

 
 二人が降り立った《蟻塚の星》は、荒涼とした赤土の大地がどこまでも続き、至る所から奇妙な形の岩山がにょきにょきと突き出ていた。
 大きな岩山の頂上が平らなテーブルのような形になっており、そこに木でできた小屋が建てられていた。小屋の前には畑と家畜小屋があり、自給自足ができそうな雰囲気の中、二人の男性が黙々と農作業に励んでいた。

 
「ピエルイジ、バレーロ」
 セカイが声をかけると男たちは作業の手を休めた。
「やあ、セカイ。今日は父さんも一緒?」
「うん、連邦のORPHANがダウンした」
「ふーん、不便なもんね」とピエルイジが言った。「そんなもんに頼って暮らしてないから何も不便を感じないけど、他の星は大変だろうね」
「考えた事もなかった――さあ、セカイ。物資を運び込むぞ」
「ん、ああ。バレーロ。セカイを手伝ってやって」

 
 ピエルイジは荷物の搬入をセカイとバレーロに任せると、やにわにロクの手を掴み、小屋の横手に連れていった。
「どうしたんだい、ピエルイジ」
「ちょっと言いにくい事。セカイにも聞かせたくないの」
「勿体つけるね」
「いい。驚かないでね――バレーロが懐妊したの」
「……」
「言葉も出ないでしょ。そりゃそうよね。バレーロは男なんだから」

「冗談を言わないでくれよ」
「冗談。最初はそう思ったけどまぎれもない事実。今は大分安定したけど、一時はつわりがひどかった」
「……想像妊娠……ではないのか?」
「それも考えた。でも奴の腹が日に日に大きくなってくるのを見て決心したの」
「何を?」
「あんたには内緒にしていたけど、あんたの星の医者に連れてったんだ」
「で、診断は?」
「妊娠に間違いないって。予定日は来月、もっともこの星にいちゃあ、多少の狂いはあるでしょうけど」

「――わかった。まずは事実を厳粛に受け止め、対策を立てる事が必要だ。医者は?診てもらった医者に往診してもらおうか」
「冷静なようで慌ててる。別に病気じゃないし、自分たちだけでどうにかできるよ」
「そうだな。ならば巡航の回数を増やそう。何かがあった場合は……ああ、やはりバインドが使えないのは厳しいな」

 
「ねえ、ロク。生まれてくる子については何の心配もしちゃあいない。授かるしかないでしょ?」
「まあ、そうだな」
「知りたいのは、これが創造主、つまりあんたの親父さんの計画なのか、或いは只の偶然なのかって事」
「もし父が仕組んだ事だったとしたら?」

 ロクが言うとピエルイジはにやりと笑った。
「あんたの星にだって、子供が欲しくても不可能なカップルはいるでしょ。そいつらをこの星に移住させてみない?」
「確かにそれで新たな子が生まれてくれば、この星で何かが起こっている証明にはなる」
「ねっ」
「だがそれはあまりにも重たい決断だ。少し考える時間をくれないか」
「いいわ。すぐに答えてほしかった訳じゃない。だけどあんたの親父さんが人間のありようを変えようとしてるのだったら、知らせとかなきゃと思って」
「ありがとう」

 
 ちょうどそこにセカイが戻ってきた。
「父さん、聞いた?バレーロさん、子供が生まれるんだって。とってもうれしそうだったよ」
 ロクはピエルイジと顔を見合わせて肩をすくめた。

 

先頭に戻る