目次
3 変心
王宮を出た茶々とランドスライドは大樹の下に向かった。
樹の根元ではヴィゴーとキザリタバンが話をするでもなく、ぼぉっと突っ立っているのが見えた。
「おい、ランドスライド。見ろよ」
「完全に生まれ変わったな」
二人が見上げた樹は先ほどまでの枯れかかった大樹ではなく、青々とした葉を目一杯に横に伸ばし、空に向かってまっすぐ伸びる若樹に変わっていた。
「ヴィゴー」
茶々が声をかけると、ヴィゴーはぜんまい仕掛けの時計の人形のように、突然、ぴょこんと動き出した。
「父さん」
「終わったぞ……っていうか、ほとんどお前の力だ」
「ドノスは?」
「生まれたのは創造主からだったが、死ぬ時はフォグ・ツリーに戻っていくんじゃないかな」
ランドスライドはにこにこ笑いながら、ヴィゴーの頭を優しく撫でた。
「あなた方」
ユグドラジルの樹を見上げていた一同は声の方に振り向いた。
そこには一人の少女が立っていて、ヴィゴーが小さく「あっ」と声を上げると、にこりと微笑んだ。
「あんたは?」と茶々が尋ねた。
「私はラダ。ようやく約束が果たされました。マリスとアイシャにもよろしくお伝え下さい」
そう言った少女の姿は薄くなっていき、完全に消え失せた。
「……今のは」
「かつての大樹ですよ。父さん」
「そう言えば、ワイオリカがそんな事言ってたな。マリスに最初の石を委ねたのが大樹だったって」
「間に合ってよかった」
「さて、帰るか。母ちゃんも心配してるだろうし――」
「文月」
キザリタバンが我に返ったかのように口を開いた。
「よぉ、ありがとな。ヴィゴーを見ててくれたみてえで」
「……文月。私は君たちを誤解していた」
「いきなり何、言い出すんだよ。らしくないじゃねえか」
「うむ。そうだな――早速、都の民に『危機は去った』のを伝えねば。では失礼する」
「へっ、何だ。あいつ」
ヴィゴーが茶々とランドスライドに挟まれるように両手をつないで、都の大路をポートへと向かっていると、こちらに向かってくる集団があった。
リンとエニク、ジュカ、ギーギだった。
「やあ、ランドスライド、茶々、ヴィゴー。お疲れ様」
「全くだぜ」
「ここにいるのが創造主エニク、そして今回の舞台を用意したジュカとギーギだよ」
「お疲れの所申し訳ないけど、今回の勝負の結果を発表してもらうわね」
エニクに促されてフードをかぶったままのジュカが面白くなさそうに言った。
「とんだ茶番、時間の無駄だ。全く心を動かされる事はなかった。所詮、そこまでの生き物、はなから期待はしていなかったが――結果はお前たちの負けだ」
「仕方ねえか。オヤジ、すまねえな」
「気にする事はないよ。ギーギは何かある?」
パンクロッカーのようなギーギがぼそぼそと話した。
「……ユグドラジルを……そのような少年が……蘇らせるとは……文月、恐るべしだ」
「茶々は?何か言いたそうだけど」
「ジュカさんよ。あんたの造ったドノスはオレたちの力でどうこうできる強さじゃなかった。前回は夜叉王、今回も大樹、結局、人智を越えた力じゃないと負かせねえって事だな」
「ふん、被創造物に慰められるとは思いもしなかった。だがお前の言う通りだ。あのクラスをお前たち自身の力だけで倒した時に、初めてお前たちを認めてやれるのかもしれぬ」
「あと、もう一ついいかい。あんた、いいとこあんだな」
「何だと」
「あんたがドノスを蘇らせてくれなかったら、こうして大樹を救う事もできなかった。何だかんだで、おれたちを助けてくれてんだよな」
「おめでたい奴め」
「さて、もういいかしら」とエニクが言った。「じゃあ、次の勝負で」
キザリタバンはチオニの住民に向けて一斉ヴィジョンを送った。
「都の危機は、勇敢なランドスライド、茶々文月、ヴィゴー文月によって回避された」
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