目次
3 消えゆく者
ヘキたちは焼け落ちる砦を全員で見つめた。
「さて」
トイサルが口を開いた。
「おれはそろそろ行くかな――バンバ、バーウーゴルのじいさんに言っとけよ。今の世界も捨てたもんじゃねえぞってな」
「えっ、トイサルも一緒に帰ろうよぉ」
「馬鹿言うな。おれはこの世界にいたらだめな存在なんだ。死んだ人間がぴょこぴょこ蘇るのはおかしいだろ」
トイサルの言葉を聞いたヘキは自分の足元がぐらつくような錯覚に囚われた。
「トイサル、今の――」
「ヘキ、お前にも世話んなったな。楽しかったぜ。他の皆ももうすぐ消えちまうだろうが、強い奴ばっかりでスカっとした。じゃあな」
トイサルは背中を向けて去っていき、バンバが慌ててその後を追った。
「ぼくもそろそろ行こうかな」
ノータが言った。
「《霧の星》の皆はもう隠れて生きるような事はしていない。。ぼくが心配しなくてもこの世界に協力的だから、何も思い残す事はないよ」
「ノータ」
ヘキはしゃがれ声で訊ねた。
「せめてデズモンドに言伝は?」
「いいよ。一瞬にせよ、ぼくが復活したのを知ったら大騒ぎするに決まってる。このままそっと消えるよ」
「……そう」
ノータが去って、ヘキとワンガミラの剣士三人だけが残った。
「我らも行くとするか」
フラナガンが言った。
「うむ」
ヘッティンゲンが答えた。
「我らもこの世界にあってはいけない存在――ヘキ。かつてお主とは敵味方だったようだが共闘できて楽しかったぞ。次の世界があればの話だが、又、一緒に戦えるといいな」
「……うん、そうだね」
フラナガンとヘッティンゲンは背を向け、語らいながら消えていった。
その場に残ったのはヘキとケイジだけとなった。
「――さて、私も行くか」
「行くって、ケイジ、どこへ行くの?」
「ここにいても仕方あるまい」
「……消えちゃうの?」
「消える?何故、消えねばならぬのだ?」
「そうよね。消える必要なんてないもの」
「元より記憶もない。各地を放浪でもするさ」
「……あのさ、あたしも付いていっていい?」
「それは構わんが、お前には帰る場所があるのだろう?」
「あたしも放浪してるのよ。旅は――」
「道連れか。それもいいかもしれんな」
「……パパ、ありがと」
ヘキはそっと呟いた。
ヘキがケイジに寄り添うように山を下りていく様子をリン、エニク、グモが見ていた。
「これで勝負は終りね――グモ、結果は?」
「特に可もなく不可もなくだ。でも――」
「いいよ、グモ。気を遣わなくても」とリンが言った。「消えなければならないケイジを消さなかった。僕の反則負けさ」
「本当にいいの?」とエニクが言った。「まだ間に合うわよ。銀河を賭けた勝負と個人の想い、個人を優先するっていうの?」
「僕はだめな親だった。創造主としても失格だ。でも親としてちゃんと娘の願いを叶えてやれないのに、創造主面をするつもりはない」
「全く、新しい創造主はてんで人間くさいのね」
「創造主である前に人間だからね」
「これであなたたちは二敗目。もう一つ負けると後がなくなるわ。それに――」
「それに?」
「今までの勝負は基本的に並行世界での出来事。実際の世界に影響を及ぼしたのは最小限……リチャードやケイジの件くらいね。でもここから先の勝負は直接、この世界に影響を及ぼす。覚悟しておきなさいな」
「対応を誤れば銀河が滅びるって事?」
「最悪、そうなるわね」
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