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3 胡蝶の夢
気が付くとくれないたちはリンから話を聞いた時と同じ状態のまま、『胡蝶閣』の一室で丸テーブルを囲んで座っていた。
「お疲れ様」
リンが同じ口調で話しかけてきた。
「――なるほど。一瞬の出来事って訳か」
「まさしく『胡蝶の夢』だな」
水牙がぼそりと呟いた。
一組の男女が部屋に入ってきた。女性はお下げ髪で、男性は小太りの短パン姿だった。
「紹介するよ。女性は創造主エニク、男性は今回の世界を用意したウムナイ」
「あなたたちもお疲れだろうし」とエニクが口を開いた。「早速、ウムナイから結果を伝えるわね」
「まあ、何て言うかなあ。エンターテインメントとしては面白かった。だけどこっちの期待した結果は出せなかったから、あんたたちの負け」
「と言う事だけど、異論はあるかしら?」
「ねえよ」
「――コメッティーノ、何があったの。あっちにいる時も妙におとなしかったし。あなたがもう少し暴れてくれるんじゃないかって期待してたのよ」
「こんな事言うと怒られるかもしれねえけどよ。結局あの世界はあんたたちが無理矢理造り出した嘘っぱちだ。《古の世界》が滅びなかったら、ああなってたんだろうっていう仮定の世界じゃねえか。それを考えちまうと、何かこうのめり込めなかったって言うか……コロッセオが炎に包まれた時も妙に冷めてたんだ。あんたたち創造主の考えが少し理解できたような気がするよ。思い入れがなきゃあ、世界がどうなろうが関係ないんだなあって」
「あなた、被創造物としては進化し過ぎね。でも大きな勘違いをしているわ。あの世界は嘘っぱちなんかじゃなくて起こり得る世界。あなたの隣に存在していても、その存在に気付く事ができないだけで実在するのよ」
「パラレルワールドってやつかよ。感知できねえんじゃあ、どうにもならねえ。何万人も見殺しにしたってのも実感できねえよ。今更、詫びを入れようにも行き方すらわからねえ」
「詫びる必要なんてないわ。起こり得る世界ってだけで、起こっていないかもしれない。でも虚構ではない。水牙の言葉じゃないけれど、人としての生活と蝶々としての生活のどちらが真実かなんてわからないものよ」
「失敗したな。変に知恵がついちまった。がむしゃらにやってりゃあ違った結果になったかもしんねえ」
「コメッティーノ。僕の責任だ」とリンが言った。「他の皆はそれぞれ種族に関わりがあったけど、君は地に潜る者と無関係だった。思い入れを持てって方が無理だよ。次の勝負からは、やっぱりしがらみのある人間を選ばないとだめだね」
「そう言ってくれると気が楽になる。くれないもへこむ必要はないって事だな」
コメッティーノに言われたくれないは小さく笑って肩をすくめた。
「じゃあ、あたしたちは行くわ。次の勝負の準備ができたら又連絡するから」
エニクとウムナイが出ていき、コメッティーノがリンに言った。
「こんなのがまだ四戦も五戦も続く訳かよ。お前も休めねえな――なあ、手伝ってやってもいいぜ」
「ありがとう。でも一人の出番は一回だけにしようと思ってるんだ」
「何だよ。おれの出番はもう終わりかよ」
「最後の方でもう一回出番があるよ、きっと」
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