9.2. Story 1 再会

3 ディヴァインを探して

 《蠱惑の星》の都、山の上のダダマスの街に奇妙な集団が到着した。龍の顔を持つ男、小柄な老人、辮髪の青年、少年と体格の良い男だった。
「――やはりここか」
 龍の顔を持った男が口を開いた。
「そうなりますな」
 小柄なしわくちゃの老人が答えた。
「むらさきに聞けば何かわかるかもしれません」
「あの空に浮かぶ城か」
「気配を察して、あちらから迎えに来るでしょう」

 
 老人の言葉通り、ダダマスのまっすぐな大路の向こうから巨大な象のような生き物に乗った女性が姿を現した。
 女性は生き物の背から降りると恭しく挨拶をした。
「王先生、ご無沙汰しております」
「おお、むらさき。元気にしておったか」
「先生のいらっしゃる《煙の星》に行く予定だったのが異世界に着いてしまい――」
「そうじゃったの」
「立ち話も何ですわ。お城までいらっしゃって下さい」

 
 ダダマスの王宮では城の主、ルパートも一同を迎え入れた。
「これは皆様。ウルトマ様がこちらに降りて来られるのは久しぶりですね」
「うむ。《青の星》の火山活動を抑えるためにかの地に向かい、そこで水の精霊の娘と出会い、娘、順天を授かった。その前となると……今は《囁きの星》と呼ばれる場所で皆、楽しく――おっと、これは何回か前の世界の話だった。どうも年を取ると記憶が曖昧になる」
「何を言われますか」
「いや、今回の戦いに敗れれば我ら六名、下位座羅漢は消滅させられる。勝ったとしても次の事を考えるべき時期に来ておる。最後の奉公という訳だ」

「そこまで考えられて――で、ここに来られた目的は当然?」
「ディヴァインの行方。むらさきであれば何か知っているかと思い、参った」
「ディヴァインとはミズチの事ですね。ミズチでしたら、あのナインライブズの日を最後に見かけておりません」
「やはりわからぬか」
「私の娘でしたら何かを語ってくれるかもしれませんわ」

 
 むらさきはフォルメンテーラを呼び寄せた。フォルメンテーラは海の水のような深い青の髪の毛に海の底のような透明の瞳を持つ少女に成長していた。
「ミズチの行方……お母様が最初にミズチに会ったのはどこ?」
「《魔王の星》でしたけど、その前にセキたちが《魚の星》でどなたかから譲り受けたと聞きましたわ」
「きっとそこの海の底よ」
「さすがじゃな」と王先生が笑いながら言った。「では《魚の星》に向かいますかな。急がないと」
「お母様たちのナインライブズの時に記憶は完全に戻ったはずだから、今はお昼寝みたいなものよ。起きればすぐに助けてくれるはず」

「ほっほっほ。この年になっても教えられる事が多いわい」
 王先生が高笑いをした。
「ところでむらさきよ。おんし、父には会ったのか?」
「はい。先生たちが来られる少し前、ここを訪ねてこられましたわ――

 

【むらさきの回想:父の謝罪】

「やあ、むらさき」
「お父様。どうされたんですか?」
「コウに会って、それから《鉄の星》でリチャードと茶々に会って、それで寄ったんだ」
「お父様ったら相変わらずですわね」
「ルパートは?」
「あら、どこに行ったのかしら」
「まあいいや。ルパートには会おうと思えばいつでも会える。そっちの扉の影から覗いてるのがフォルメンテーラかな?」
「ええ、珍しく朝から妙に興奮してたので何があるのか思案していましたけれど、この事だったのですね。フォルメンテーラ、いらっしゃい。おじい様にご挨拶よ」

 
 緊張した面持ちのフォルメンテーラがリンに礼儀正しく挨拶をし、リンは微笑んだ。
「魔法使いみたいな子を想像してたけど、どうして、立派なお嬢様じゃないか」
「この子ったら。こんなに緊張するのを見るのは初めてですわ」
「フォルメンテーラ。おじいちゃんに何か言いたい事があるんじゃないかい?」
 リンが優しく尋ねるとフォルメンテーラはようやく小さく笑った。
「ううん。あたしはいいの。おじいちゃまがお母様にお話があるんでしょ?」
「うん、その通りだけど。むらさき、君は僕に訊きたい事がない?」
「……さあ、取り立ててございませんわ」

 
「――実はね、むらさきに謝らなきゃいけないって思ってたんだ」
「何の事でしょうか?」
「君の意志にお構いなしに勝手にマックスウェルと約束した事」
「……お父様。もしそれがルパートとの婚姻を指すのでしたら大きな間違いです。私たちは互いの気持ちが通じ合って結ばれました」
「うん、だけど」
「創造主がそんな事では困りますわ。創造主の意志はこの銀河の意志。人一人がどうなろうと関係ないではありませんか」
「僕にはそんな事できないよ」
「そうなって頂かないと困ります。ねえ、フォルメンテーラ」

「でもおじい様はそういう方よ。この先も銀河を救うよりも一人の想いを選んでしまう事になるんじゃないかしら」
「まあ、それは確かなの?」
「実際に見た訳ではないけれどそんな気がするの」
「――だそうですわ。お父様。こちらの想いに寄り添うのはほどほどになさって下さいね」

「心に留めておくよ。実はリチャードを送り出すのにも躊躇した」
 リチャードという言葉が出た瞬間、フォルメンテーラの眉毛がびくっと動いた。
「おじい様。リチャードおじ様なら大丈夫。きっと全ての鎖を解き放ち、自由になるわ」
「僕もそう思ってる。そして……リチャードに会う事は二度とない」
「仕方ありませんわ」
「そうよ。おじい様。それがリチャードおじ様の望まれた事ですもの」

「ふぅ、やっぱり君たち親子は凄いな。僕も早く世俗を超越した域に達したいよ」
「大丈夫ですわよ。それにお父様のその人間くさい所がなくなったらつまらないです。きっとウルトマ様や他の創造主、それにかつての創造主たちも同じ思いのはずです」
「わかった。最初に君たちと話せて良かったよ。どうにか長丁場の勝負を乗り切れそうだ」

 

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 Story 2 約束

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