9.2. Story 1 再会

2 サラの見た夢

 リチャードは茶々を伴い、久々にプラに戻った。
 街をぶらつくと言う茶々と別れたリチャードは大門の前に立ち、子供の頃と同じように鉄の柱に触れながら語った。
「大門よ。お前との付き合いもずいぶんになるな。子供の頃の私は、どうすればお前が『全能の王』の再来たる私に心を開き、語りかけてくれるか、それだけを考えていた……そんなお前は今の血に汚れた私を見てどう思う?」
 大門はいつも通り何も語らなかった。だが一瞬だけ笑った、リチャードは何故かそう思った。

 
 プラの広場にはマンスールに蹂躙された時代の傷跡はどこにも残っていなかった。全てが美しく、調和の取れた街、リンが生まれた東京とは正反対だった。
 リン――元気にしているか、この銀河を救うために『上の世界』の住民、新たな創造主になる道を選んだ男。やはりあの男こそがこの人生のゴールを示すのか。

 
 リチャードが王宮に入ると今は軍のトップに上り詰めたゲボルグが飛んできた。
「リチャードじゃないか」
「ゲボルグ、久しぶりだな」
「連絡くらい寄越せよ――あ、前王の命日だったな」
「父だけではない。母も叔父も叔母も、全ての人の命日だ」
「よく帰ってきたな。女王陛下に会っていかれるだろう」
「ああ、サラにもとんとごぶさただ」

 
 玉座の間ではサラ女王と《銀の星》の王、エスティリが話をしていた。
「お兄様」
「リチャード」
「そろそろ来る頃じゃないかと話をしていたのですよ」
「ようやく暇ができた。ジャンルカは?」
「昨年は来られたのですが、今年は忙しいようです。ヴィジョンでご挨拶だけをもらいました」
「そうか……早速、皆の墓前に参ろう」

 
 玉座の間に戻るとサラが声をかけた。
「お兄様、ごゆっくりできるのですか?」
「飯くらいは一緒にしよう――エスティリ、一緒に食事をどうだ?」
 リチャードに声をかけられたエスティリは静かに微笑んだ。
「……いい表情をしているな。何かを決断した男の顔だ」
「お見通しか」
「当たり前だ。銀河を救うドラゴンキラーからの食事の誘い、これほどの名誉はない。サラと二人でお前の門出を祝わせてもらおう」

 
「そういえばお兄様、夢を見ました」
 食事が終わり、エスティリが《銀の星》に戻った後でサラが口を開いた。
「ほぉ、相変わらず予知夢を見るのか?」
「いえ、この頃は全く。本当に久しぶりでした」
「で、どんな内容だった?」

「お兄様が再び運命の男リンに導かれ、龍との戦いに出かける夢でした」
「やはりそうか」
「結局、私の夢はお兄様の運命を予知するためにしか使われないみたい」
「だがいつでも銀河の一大事につながっている。誇っていいぞ」
「はい。お兄様、どうかご無事で」
「サラ。私に気を遣わず、いい男を見つけ、世継ぎを残せ。センテニアの血を絶やせば、ドグロッシ、タランメール、デルギウス、そして我が父に何を言われるかわからん」

 
 翌朝、リチャードが王宮から散歩に出ると大門の所にお目当ての人物が佇んでいた。
 リチャードは歩道を降りて大門に近付いた。

 
「リン、久しぶりだな」
 リチャードに声をかけられた人物はゆっくりと振り向いた。
「やあ、リチャード。よくわかったね」
「当たり前だ。何年、付き合っていると思う」
「そうだよね。僕らは『心身合一』した時期もあったし、互いの考えは手に取るようにわかる」
「ああ、だからお前が今ここにいる理由も」

「いよいよその時が来たみたいだ」
「『みたい』だと。お前は創造主だから事を起こす側だ。何故、断定しない?」
「うーん、上手く説明できるかな。元々の創造主と銀河を賭けて勝負をする事になった。これはその最初の勝負、龍族を造った創造主からの挑戦なんだ」
「お前が新しい創造主にふさわしいかどうかという意味か?」
「そうそう。お題は『龍の王国』って言われたからには――」
「私の出番という訳だな」

「でもね、リチャード」
「ん、何だ」
「やっぱりこの勝負、止めようか」
「おいおい、創造主たる者が何を言い出す――私に万が一つも勝ち目がないからか?」
「そればっかりはわからないけど、《巨大な星》に出現したグリュンカだけでもあんなに強そうだったのに、その他にもいる。身体が持たないよ」
「心配するな。スタミナには自信がある。伝説の三匹の龍、グリュンカ、ゾゾ・ン・ジア、バトンデーグ、まとめて相手する」

「それに嫌な予感がするんだ。向こうは最初からリチャードが出てくるのを期待、ううん、あらかじめ登場が約束されたキャストみたいな感じだった」
「それはそうだ。私は龍と戦う事を運命付けられた男なのだから」
「王先生が言っただけだよ。創造主まで同じ事を言うもんかなあ」
「私を過大評価するな。お前と違って私は被創造物の一戦士に過ぎん。創造主が私を名指しするのに深い理由などあろうはずもない」
「ならいいけど――」

 
「他にも誰か声をかけたか?」
「うん。コウと順天」
「王先生は?」
「順天の父さん、ウルトマが行ってる」
「青龍たちを引き連れてご登場か――」
「それだけじゃない。一番大事な人が復活しないと……」
「《古の世界》を守ったディヴァインか。蘇ったという話は聞かないな」
「……絶対に必要だよ」
「ふふふ、ディヴィアンなしでは私の命運も尽きるか」
「……うん」

 
「よお、リチャード」
 市街地の方からやってきた茶々が声をかけた。
「茶々。昨夜はお楽しみか。あまり羽目を外すとワイオリカに叱られるぞ」
「そんなんじゃねえよ――っと、そっちにいるのはオヤジじゃねえか」

「茶々、大きくなったね」
 リンは笑顔で茶々に声をかけた。
「当たり前じゃねえか。結婚して子供だっているんだぜ」
「そうだよねえ」
「何だよ。楽しい話ならオレも混ぜろよ」
「うーん、今回、茶々は関係ないなあ」
 リンは茶々にごく簡単に事情を説明をした。

 
「――なるほどな。相手が龍じゃあオレの出番はないが、何番目の勝負で呼んでくれるんだ?」
「まだわからない。でも七回勝負のどこかでは手伝ってもらうから」
「オレは出ずっぱりでもいいんだぜ」
「あははは、やっぱり魔王は違うなあ」

「ちっ、オヤジと話してると調子が狂うぜ――ところで場所はどこだ。龍が蘇ったなんて情報は耳にしてないぞ」
「説明しにくい場所なんだ。銀河の中心、バルジのどこからしいよ」
「ふーん、なら万が一の事態が起こっても安心かもな。じゃあリチャード。またな」

 
 口笛を吹きながら去っていく茶々を見送りながらリンがリチャードに言った。
「まったく面白い子だなあ」
「出会ったばかりの頃のお前よりはずっとしっかりしている」
「でも『またな』って」
「あいつなりの優しさだ。もう会う事はないとわかっていてもそれを表には出さない」

「……本当にごめん」
「創造主が何を言う。ようやく私は全てから解放されるんだ。その機会を与えてくれたお前には感謝しかない」
「リチャード」
「さあ、もう行け。お前も忙しいだろう」
「うん、さようなら」
「リン、お前に会って私は救われた。礼を言う」

 

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