目次
3 挑戦状
「ここからが本題って訳だね」とリンは言った。
「そう。私たちも自分たちの箱庭を被創造物に乗っ取られたままだと色々と困るのよ。私たち自身のプライドもあるし」
「それはそうだよ」
「でも私はあなたたち新しい創造主を憎んでいる訳じゃない。アビーは昔からの友達だし、ウルトマたちともうまくやってきた」
話が今後に及んだ所でウルトマたち六人を見ると、全員大きく頷いていた。
「はなっから被創造物に好意的じゃないジュカみたいな者もいるけど、決して戦ってこの箱庭を消滅させたりしたくはないの」
「うん」
「そこで提案なんだけど、私たちとあなたたち新しい創造主とで勝負をしない?」
「勝負?」
「あなたたちが私たちの出す試練に上手に答えられたら、あなたたちを認めてこの箱庭を新しい創造主に譲る。でも期待はずれだったら返してもらいたいの」
「それには納得するね。僕だって正々堂々とこの銀河を見守っていきたいもの。でも戦いじゃなくて、どうやるの?」
「私たちの方でフィールドやシチュエイションは用意するわ。あなたはそれに合わせてプレイヤーをチョイスしてそのお題をクリアすればいいだけよ。簡単でしょ?」
「ちょっと待って。マザーはあんな調子だからやらせたくないし、ここにいる六人と僕でやればいいの?」
「別にマリスやセキ、他の……そうね、リチャードたちを使ったって構わないわよ。私たちの出す問題はものすごく難しいはずだから、総力戦で臨まないと勝てないわよ」
「それならどうにか――」
「私たちやあなたが直接手を下すのは禁止にしましょう。こちらはきっかけと舞台を用意するだけ。あなたはプレイヤーを選ぶだけ」
「そうしよう。で、何をやるの?」
「皆を呼ぶわ。ちょっと待ってて」
エニクの言葉を合図にArhatsたちが部屋に入ってきた。八人の男たちは一様に無言だったが、フードで顔を覆って表情がわからないのがジュカで、へヴィメタのギタリストのような危ない外見がさしずめギーギだろう。へらへら笑っている双子がウムナイとウムノイで、それを見守る好青年はグモ。気障な口髭の男はセキが会ったというオシュガンナシュ、元気な少年にしか見えないのがワンデライ、オールバックに髪を撫で付けたエネルギッシュな雰囲気はバノコに違いなかった。
「あれ、エニクを入れても九人しかいないよ。十人いないとおかしいんじゃない?」
「レアの事は勘付いてるのね。チエラドンナはもういない。あの娘はチームをはずれたの。だからこの九人であなたたちに挑戦する」
「……いいよ」
「じゃあ」と言ってエニクは八人の方を向いた。「新しい創造主の力を試したい人はいるかしら?」
全員が一斉に手を挙げた。中でも半ズボン姿の双子は元気よく手を挙げ、「おれ、おれ」と騒いでいた。
「はい、わかったわ。じゃあウムナイとウムノイ」
「ちょっと待てよ、エニク。双子だからって一つにまとめようとしてるだろ?」
「そうだよ。おれたちは別々にやりたいんだ」
「わかった、わかった。別々におやりなさいよ。グモも?」
グモと言われた背の高い好青年は頷いた。
「ジュカは?」
ローブをかぶって顔の表情がよくわからない男が答えた。
「ギーギ、どうだ。一緒にやらんか?」
ヘビメタのロッカーのような男は小さく頷いた。
「ジュカとギーギは一緒ね、大体内容の想像がつくわ。バノコは?」
オールバックの陽気そうな男は言った。
「やるよ」
「ワンデライは?」
少年にしか見えない男が言った。
「こんな機会は滅多にない。やらせてもらうよ」
「オシュガンナシュは?」
貴族のような出で立ちの男が答えた。
「もちろんやらせてもらいます」
「そうすると七つで私を入れて八つか。キリが悪いわね――オシュガンナシュ、私、とりあえず、あなたと一緒にやるわ」
オシュガンナシュは頷いた。
エニクは改めてリンの方に向き直り、言った。
「聞いてたと思うけど、こちらから用意するのは七つの挑戦。七回戦のうち四勝した方が勝ち、但し三勝三敗になった場合、そこから先は二つ勝ち越さないとだめ。どう?」
「いいけど勝利の条件って何?」
「まずは私たちが用意したシチュエイションをクリアするのは最低条件。その上で私たちを納得させないと勝ちにはならないというのはどうかしら?」
「それはないじゃろ」
突然にアウロが口を開いた。
「あら、アウロ、どうして」
「ジュカやギーギは元々、我々に批判的。納得するとは思えん」
「やってみないとわからないじゃない。それとも自信がない?」
「大丈夫だよ、アウロ、エニクの言う通りさ。やってみないとわからないよ」
「リンが素直で何よりだわ。こちらも準備があってレアに頼んで別次元を用意してもらう場合もあるから、一度に七つ全部って訳にはいかないの。一つ一つ勝負を楽しんでいきましょうよ。じゃあ個別の試練の内容はそれぞれのArhatから知らせるから楽しみに待っててね」
そう言って去ろうとするエニクたちをリンが呼び止めた。
「あ、待って。最初の挑戦だけ教えてよ」
「いいわよ……最初の試練はウムノイ。内容は何かしら?」
「えへへ。『龍の王国』。お前も誰をプレイヤーにしたらいいか見当がつくだろ?」
「うん。とうとうその日が来たか……」
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