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3 傍観者
《古城の星》、紅鶴城中心の奥深くにある宣憐楼で男たちが酒を酌み交わしていた。
「しかし兄者も忙しいな」
男たちの内の黒眼鏡の男が口を開いた。
「いや、ようやく一段落だ。後はあの男に任せた」
兄者と呼ばれた体格の良い男が答えた。
「それよりお前こそ頻繁にここに立ち寄るが、暇なのか?」
「言っただろう。兄者の事が心配だと」
「ふん、大方、新・帝国についておれの意見を聞きたいのだろう」
「そんな所だ。なあ、どうなんだ?」
「どうなんだと言われてもな――あの男は銀河が混沌に覆われれば満足だろうし、おれは楽しければ何でもいい。連邦が勝とうが、新・帝国が勝とうが関係ない」
「そんなものか」
「簡単な事だ。『混沌』が結集して何かをやろうとすれば、その時点で『秩序』が生まれる。それぞれがてんでの方向を向いたままでいいんだ。今日は味方のようでも、明日には首を切られるかもしれない。そのひりひりした感覚がたまらんのだ」
「マリスは『混沌』についても言及したようではないか」
「あの青年は面白いな。おれの知る限りではあいつは『混沌』に属する人間だったはずだ。それが今や『自由』を掲げている。元々、『秩序』の側にいて『自由』を目指す奴らとは出自が違う」
「ならば兄者はマリスと近いのか?」
「そんな単純ではないな。おそらく瀕死の連邦はマリスを止めるためなら、なりふり構わず『混沌』と手を結ぼうとする。おれたちは命運を握っているのだ」
「なるほど。『秩序』も『自由』も『混沌』も大差ないという事か」
「その通りだ。おれたちは連邦だろうと新・帝国だろうと利用できるものは利用するが、心中などまっぴらごめんだ」
「悪賢いな」
「お前の星のあの覇王を目指す男を見習っただけさ。最後に勝利した者が勝者だ」
その頃、その『覇王を目指す』と呼ばれた男も、ようやくある人物と連絡が取れた所だった。
「ジュカ様、やっと連絡が取れました。何かありましたかな?」
「ふん、取るに足らん話だ。あのリン文月が我々を追い出した」
「やはりそんな事が。アーナトスリ様も消滅させられたと聞きますし……いよいよ銀河は波高しですな」
「エニクの提案でこの銀河を賭けて勝負を行おうという話もあってな。これも又、下らない」
「ほぉ、で、勝敗の行方は?」
「知らんな。だがわしのように元々被創造物に否定的な者の気持ちは動かん」
「……となると現状通りですな」
「嬉しそうではないな――なるほど。アーナトスリを消滅させるほどの力の持ち主、リン文月には勝ち目がない。どうだ、図星だろう」
「正直申し上げてその通りです。ノカーノは記憶に問題がありましたが、リン文月の場合は完全。勝機を見出すのは難しそうです」
「ここまで待ったのに残念だな……」
空間に響くジュカの声が止まり、時が流れた。どれくらい経っただろうか、再びジュカの声がした。
「……そうか、そういう事か。この勝負に乗じれば、お前にも勝ち目があるかもしれんぞ」
「ジュカ様、それは一体?」
「時が来ればわかる。それまでは消滅の恐怖に怯えて眠るがよい」
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