9.1. Story 1 変貌する銀河

2 キザリタバンの憂い

「前議長についてですが如何なさいますか?」
 一人の文官がトゥーサンに質問した。
「言ったであろう。議長職を剥奪、それが連邦の正式決定だ」
「では公式記録としても……」
「当たり前だ。それとも何か、お前は不満があるのか?」
「いえ、滅相もありません」
「ははーん、わかった。新・帝国とやらの設立宣言を聞いて腰が引けたな。気にするな。あちらは協調路線を探るとか言っておるが、こちらの姿勢は明白、徹底的に対抗する」

 
 べそをかきそうな表情の文官を部屋から追い出し、トゥーサンは議長の椅子に荒々しく腰かけた。
「ふん、どいつもこいつも民衆が好む『自由』という言葉に踊らされおって。最後の最後には『秩序』が勝利するのがわかっておらんのか」

 
 尚も口汚く罵りの言葉を吐き続けようとしたトゥーサンにヴィジョンが入った。
 《享楽の星》のキザリタバンからだった。
「トゥーサンか」
「ああ、キザリタバン。久しぶりだな」
「何をやってるんだ?」
「ん、ああ、まあ、色々とな」
「『色々とな』じゃないだろう。どうしたというんだ。《泡沫の星》での一般市民の襲撃に始まる連邦の醜態の数々、挙句の果てに『新・帝国』の設立宣言、何が起こっている?」
「キザリタバン、初めに訂正させてくれ。ロアリングが襲撃したのは一般市民ではない。あれは消さねばならぬ危険極まりない奴らだった」
「世間はそうは見ない。『もう連邦を信じない』、『ごろつきの集まりだ』。文月のあまりの奔放さからくる恐ろしさを目の当たりにした私が、連邦に秩序をもたらすためにと思い、推挙したお前が無秩序の原因となるとは皮肉なものだな」
「私が間違っていたと言いたいのか」

 
「――ここから本題だ。お前のその過ちが招いた結果こそが、此度の新・帝国設立宣言だ。あの覇王を名乗る者も文月だぞ」
「ああ、ロアリングは身を持って知っている。《泡沫の星》で軍を殲滅させたのも、《虚栄の星》で創造主の石を奪い取ったのも、全てあいつ、マリスの仕業だ」
「そういった事を公式にアナウンスせず、うやむやにするからますます良からぬ噂が広がる」
「そうは言うが完敗だ。そのような恥を伝えられるものか」
「くれない前議長は心の中で大笑いしただろうな」
「くそっ」
「しかしマリスか。ドノスとの戦いには参加していなかった。それだけの実力があれば都は……いや、憶測で物事を語るのは止めておくか」

「キザリタバン。文月には一体どれほどの手練れが存在するんだ?」
「私に聞かれてもな」
「連邦行きを勧めたのはお主だぞ。勝算もなしに焚き付けたのか」
「他の兄妹たちは行方不明――マリスについては予想外だった」
「こちらに勝ち目はないのか?」
「そう質問攻めにするな。普通にやっていたのでは無理だ」
「連邦は覇王の軍門に下るのか」

「まあ待て。マリスが最後に言っていたろう。この戦いは連邦の目指す『秩序』とマリスの掲げる『自由』の戦いだけではない。更に第三極、『混沌』があると」
「『混沌』……それはもしや」
「その第三極に期待するしかない。我々は決して彼らと争わないように持っていく、それができるか、トゥーサン?」
「……それこそ皮肉だな。『秩序』を守るために『混沌』と手を結ぶとは。だがそれしかないのであれば、それに賭けるしかない」
「健闘を祈るぞ」

 
 ヴィジョンを切ったトゥーサンはしばらく放心した表情でいたが、やがてロアリングを呼び出した。

 同じくヴィジョンでの会話を終えたキザリタバンはチオニの王宮で一人思った。
(最近、チオニにダガナゲウスという名の賢者が現れたと聞く。その男を調べてみるか)

 

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