玉座の間には王が座していた。流れるような金髪に憂いを秘めた表情、『クロニクル』で読んだ通りの男がぼくの目の前にいた。
「デズモンド・ピアナ殿か。父から話を聞いている」
「それはありがたき幸せ。ここに控えるは孫とその嫁にございます――後の二人は……ボディーガードのようなものですな」
じいちゃんがリチャード王の前で跪いたので、慌ててぼくらも真似をした。
「おお、そうか。そちらに腰かけるがよい」
「ではお言葉に甘えまして」
ぼくらは王と対面する形で用意された椅子に腰かけた。コメッティーノとゼクトはボディーガードらしくぼくらの背後に立った。
「さて、今日は何用で参られたかな?」
「わしらは《青の星》から来ました」
「何――それはずいぶんと遠い所からご苦労であったな」
「王は《青の星》と聞いて、何か思い浮かぶ事がございませんか?」
「かつてデルギウス王が行ったという記録が残っているが――私はないな。さほど外の世界に興味がある方ではないのだ」
何だか変な感じだった。想像していたリチャードとは少し雰囲気が違った。
「いえ、王が実際に行かれたとかではなくて、例えば夢でも結構ですよ」
「夢……ふーむ、ひとかどの大人として夢の話をするのはどうかと――」
「王よ。建前はどうでもいいんだ。あんた、《青の星》の夢を見てんだろ?」
じいちゃんの口調が突然変わり、リチャード王も居合わせた家臣たちも、もちろん美夜とぼくも驚いた。家臣が立ち上がろうとするのをリチャードは手で制した。
「――デズモンド殿。失礼だがあなたは占い師の類の人間か?」
「いや、そうじゃねえよ。あんたが見る夢に《青の星》が出てくるのはまぎれもない事実だって言ってんだ」
「……ううむ、確かにその通りだが所詮は夢。よもやそのような戯言を申しにここまで来た訳でもあるまい」
「もしもそれが夢ではなく事実で、あんたは『七武神』と呼ばれる銀河の英雄だったとしたら?」
「なるほど。誰にも話した事のない夢の内容までご存じという事はただの騙りではないようだ。しかしそんな話はありえない。この私が銀河の英雄などとは。私は争いを好まない」
「……ロックを知ってるよな?」
「……何故、その名を?」
「人払いした方がよくないかい?」
「うむ、そうだな」
リチャード王は立ち上がって家臣たちに出ていくように命じたが、その顔は青ざめていた。
「幼い頃から私の遊び相手が架空の人物、ロックでした。ロックは私にない勇気や力、悪だくみ、全てを備えていました。私はそんなロックを理想の存在として自分を重ね合わせていたのです」
「あんたは事実の世界ではそのロックを吸収して英雄となっているのさ」
「事実の世界。私の夢がですか?」
「あんただけじゃない。《砂礫の星》のコメッティーノも《商人の星》のゼクトも同じだ。こいつらの名前は聞いた事あるだろう?」
「ええ、名前だけは。大変な乱暴者でしょう?」
リチャードの言葉を聞いたコメッティーノとゼクトは笑いを必死になって堪えているようだった。
「――じゃあこの名前はどうだ。あんたの最大の理解者、リン文月」
「……その通りです。私の《青の星》の妄想の記憶の大半はリンやその息子たちと共に戦った日々。しかし――」
「しかしもへったくれもないんだよ。そっちが事実だから仕方がない。わしたちはその事実の世界を取り戻すために旅をしてる。あんたの力を貸してほしいんだ」
「私は争い事を好みません。今ここにいる私は斯様に臆病者だ。エスティリもノーラも、ジャンルカやサラでさえも私を馬鹿にしています」
「おいおい、デルギウスの末裔たる者が何てざまだ。もっと自信を持てよ」
「ですが事実です。父の期待にも沿えなかった私はセンテニア家の恥なのです」
「あんたは戦う運命にあるんだ。あんたの中のロックが黙っちゃいねえだろう?」
「どういう意味でしょう。ロックとは私の意識が作り上げた虚構のもう一人の私の名――そんなのは所詮夢だ」
「話せば長くなるんだが――事実の世界ではあんたとロックは別人格だったのをあんたが無理矢理吸収した。こっちのあんたはあんたの中のロックと折り合いが付いてるみてえで、人間くさいって言うのかなあ」
「おっしゃってる意味がよくわかりませんが――とにかく私は戦いには赴きませんので」
「わかったよ。今日の所は引き揚げるよ。だが又来るからな。それまでには心の準備をしといてくれよ」
ぼくらは王宮を出た。さすがのじいちゃんもため息をついていた。
「話に聞いてた以上の腰抜けだな。ありゃ」
コメッティーノが言い、ゼクトが大きく頷いた。
「だがあいつがその気になってくれんと困るんだよ」
「本当かよ。役に立たないだろ?」
「役に立つ、立たないという話じゃないんだな。必要なんだ。お前らと同じさ」
「ふーん、そんなもんかねえ」
「それはそうとお前ら、これからどうするんだ?」とじいちゃんが尋ねた。
「あー、考えてなかったな。あんたらはどうすんだ?」
「《巨大な星》に行く」
「だったら一緒に行ってやるよ。なっ、ゼクト」
「うむ。自分らはボディーガードだそうだからな」
ゼクトが冗談を言ったのを聞いて、じいちゃんもぼくたちも大笑いした。
「――まあ、いいや。次の目的地に行こうや」
登場人物:ジウランの航海日誌
名 Name | 姓 Family Name | 解説 Description |
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---|---|---|---|
ジュネ | パラディス | 《花の星》の女王 | |
ゼクト | ファンデザンデ | 《商人の星》の商船団のボディーガード | |
コメッティーノ | 盗賊 | ||
ハルナータ | 《賢者の星》の最後の王 | ||
アダン | マノア | 《オアシスの星》の指導者 | |
エカテリン | マノア | アダンの母 | |
リチャード | センテニア | 《鉄の星》の王 | |
ニナ | フォルスト | 《巨大な星》の舞台女優 | |
ジェニー | アルバラード | 《巨大な星》の舞台女優 | |
葵 | 《巨大な星》、『隠れ里』の当主 | ||
陸天 | 《念の星》の修行僧 | ||
ファランドール | 《獣の星》の王 | ||
ミナモ | 《獣の星》の女王 | ||
ヌニェス | 《獣の星》の王 | ||
マフリ | センテニア | ヌニェスの妻 | |
公孫 | 転地 | 《武の星》の指導者 | |
公孫 | 水牙 | 転地の子 | |
ミミィ | 《武の星》の客分 | ||
王先生 | 《武の星》の客分 | ||
ランドスライド | 《精霊のコロニー》の指導者 | ||
カザハナ | 精霊 | ||
アイシャ | マリスのパートナー | ||
デプイ | マリスのパートナー | ||
マリス | 覇王を目指す者 | ||
マル | マリスの父 | ||
ツワコ | マリスの母 |