目次
2 他に石を持つ者
名誉のために
次に登場したのは公孫風と附馬青嵐だった。
「《武の星》の公孫風、《将の星》の附馬青嵐です」
二人の登場にロアリングが真っ先に反応した。
「公孫に附馬、貴殿らは連邦軍人か?」
「はい。その通りです」
「ふふふ、そうであったか」
ロアリングは相好を崩した。
互いに自己紹介を済ませ、風はテーブルに『虚栄の石』を置いた。
「ロアリング」
進行役のレネが声をかけた。
「急に機嫌が良くなったようだが、どうしてだい?」
「当然であろう。援軍が来たのだからな」
「援軍?」
「この二人の事だ。連邦の公式命令に従わなかったのは懲罰ものだが、まあよい。これで石の数は並ぶのだからな」
「ちょっと待ってくれ、ロアリング。風たちが君に従うのは決定事項かい?」
「そんなのは聞かずともわかる。連邦に忠誠を誓う軍人であれば従うのが当然だ」
「まあまあ」
レネは風に向かって言った。
「さて、現在の状況だが、『チームRP』が四個、連邦が三個、マリスが四個の石を持っている。確認はしていないが、現時点ではこの三者は他の誰かに手持ちの石を委ねるつもりはないようだ。そこに君が石を一個持って登場した。もちろん君はそのまま石を持ち続けてもいいが、所詮は勝ち目のないレース、この三者の誰かに石を委ねる事もできる。つまり君は今、銀河の未来のキャスティングボードを握っている訳だ」
「……キャスティングボード」
風はちらっとロアリングを見てから、青嵐と目で合図を送り合った。
「少し考えさせてもらえますか?」
「なっ」
ロアリングが立ち上がろうとするのをレネが制した。
「いいだろう。非常に重要な決断だ。時間をかけたまえ。テーブルから離れた場所で好きなだけ話し合ってくれ」
風と青嵐が小声で話し合う様子をレネとマリスは興味深げに眺めた。ロアリングだけが落ち着かない様子で膝をせわしなく動かしていた。
再び風がテーブルに戻った。
「結論が出ました。私たちはやはり連邦軍人、連邦に従います」
「そら、見たことか。初めからわかり切っていたではないか。これで三者が同数だぞ」
ロアリングは勝ち誇ったように唸り声を上げた。
「――ですがロアリング将軍」
「何だ?」
「私たちは失意の内に亡くなった父、厳炎の名誉回復のために石を手に入れたのです。連邦軍の名において公孫厳炎の名誉を回復して下さる事が唯一の条件です」
「おお、お安いご用だ。戻ったらすぐに手続きに移る」
レネは静かに成り行きを見守った。
「君の決断は尊重しよう――ロアリングの近くに席を用意する」
少数民族の悲哀
風たちが着席するとすぐに次の人物が現れた。
水に棲む者、ビリンディだった。ビリンディは水に棲む者の時代がかった正装である鱗の鎧兜に珊瑚の冠を身に付けていた。
「ビリンディかな。遠い所をようこそ」
「まったくだ。尊敬するルンビア大叔父に関係の深い土地だから来てやったが、他の場所だったらお主らなど無視したであろう」
「それはラッキーでした。ではこちらへ」
レネはてきぱきと風にした説明と同じ説明を繰り返し、ビリンディは参加の証となる『変節の石』をテーブルの上に置いた。
「で、ビリンディ。どうするかね?」
「ふっ、結局どこに行っても少数派か。だがどうするもこうするもない。お主ら、三者とも信頼しておらん」
「ひとまず『保留』という事でいいかな」
「うむ」
「ではそこに座って会談の続きでも見物していてくれ。気が変わればいつでもいい。意見を述べてほしい」
ビリンディは三者から離れたレネに近い位置に用意された椅子に座った。
続いて地に潜る者、ミーダがゾモックとゴララを伴って現れた。
「《地底の星》のミーダ、ゾモック。ゴララだ」
ミーダは一座を見回し、後方に控えるビリンディに気付き、驚いたような表情を見せた。
レネは三度説明を繰り返し、ゾモックが『全能の石』をテーブルの上に置いた。
「さて、君たちはどうする?」
レネが問いかけるとミーダは冷ややかに笑った。
「ビリンディもきっとそう言っただろうけどな。これと思う奴はいるが、どこまで信頼していいかわからねえ」
「では『保留』だね」
ミーダたちもビリンディから少し離れた場所に陣取った。
次に現れたのはニコだった。
「ニコ、こんな場所まで来て大丈夫なのかい?」
マリスが心配そうに尋ねるとニコは微笑んだ。
「ヘキが様子を見てくれている。それに旅費はステファニーが工面してくれた」
レネが説明をし、ニコは『竜脈の石』をテーブルに置くと高らかに宣言した。
「私の気持ちは初めから決まっている。この石はマリスに委ねよう」
「わかった」
レネは静かに言った。
「ここで動きがあったので一度おさらいをしよう。まずマリスの手には『血涙の石』、『純潔の石』、『夜闇の石』、『貴人の石』、そしてニコの『竜脈の石』、合計五個だ。ロアリングには『老樹の石』、『禍福の石』、『火焔の石』、そして風の持つ『虚栄の石』の四個。そして『チームRP』には『戦乱の石』、『隠遁の石』、『天空の石』、そしてナカツの『黄龍の石』、四個となっている。ここまではいいかな?」
ナカツの意志
「ちょっと待て」
突然、レネの後方のビリンディが立ち上がった。
「レネ。間違えているぞ」
「はて、合っていると思うが」
「お主、ナカツの『黄龍の石』と言ったろう。叔母の珊瑚がナカツに授けたのはそんな石ではなかったはずだ」
レネは何が起こったのか理解できないようだった。仕方なくナカツの方を見ると、ナカツがやれやれという表情で立ち上がった。
「そう。レネの言っている事もビリンディの言っている事も間違っちゃいない。石を二つ持っているんだ」
「ナカツ、何故、それを黙っていたんだい?」
「この石をくれた珊瑚が言った。私自身が行動するために必要な石だ、と。だからこの石は本当に信頼できる人間に委ねようと思って黙ってた。もう一つの『黄龍の石』については、私をここまで育ててくれたズベンダやこの冒険に参加させてくれたレネ、一緒に苦楽を共にしたスピンドルに対する感謝の気持ちの表れとして『チームRP』に預けた」
ナカツはそう言って懐から『魚鱗の石』を取り出した。
「マリス。この石は君が持つのにふさわしい」
マリスは突然の事に面食らった。
「ナカツ、それはだめだ。そんな事をしたら君の立場が――」
「いや、もちろんここにいる仲間は知ってるし、ズベンダにも話してある。君が命の恩人だと言ったら彼も納得してたよ。知らなかったのはレネとスピンドル、いや、スピンドルは薄々勘付いてたかも――」
ナカツの話は拍手によって遮られた。拍手をしたのはロアリングだった。
「美しい話だ。泣かせるじゃないか。レネ、どうだ。飼い犬に手をかまれた気分は?」
ロアリングの挑発を受けたレネは静かに言い返した。
「まったく気にならないさ。こういう形になるのは計算済みだ」
「何を負け惜しみ――」
「負け惜しみじゃないさ。今のが君と私への決定打になったようだ――そうだろ、ミーダ」
レネに言われたミーダはくすくす笑いながらテーブルに近付いた。
「この二人、マリスとナカツに賭けてみるのは面白いと思うぜ。ほらよ」
ミーダは石をマリスに投げて寄越した。
「地に潜る者がそうするのであればこうするのが道理だな」
ビリンディも立ち上がり、マリスに石を手渡した。
最終提案
あっけない決着に誰もが言葉を失う中、レネがしゃがれた声を出した。
「これでマリスの石は……八個。あと一個で半数に達する」
ロアリングは口をぱくぱくさせたまま、天井を見ていた。
「まだもう一つの石が登場していないが、我々『チームRP』は敗北を認め、四個の石をマリスに――」
「認めない。絶対に認めてはいけないんだ!」
ロアリングはテーブルを叩いて絶叫した。
「お前ら、知ってるのか。こいつは生まれ変わる前に大量殺人を犯している極悪人だぞ。こんな奴に石を委ねたら銀河の破滅だ。連邦は秩序を維持するためにも絶対に石を渡さない」
「やれやれ、連邦が敗北を認めないであろう事も予想済みだ。ではロアリング。こういうのはどうだい。コロシアムに行って、そこで一発勝負、力によって決着をつけるのは?」
「それは不公平だ」
ニコが声を上げた。
「すでにマリスは半数の石を持っている。連邦の倍の数を持っているのに一発勝負だなんて――」
マリスはニコを静かに制した。
「いいんだ、ニコ。僕はその決着のつけ方が武人らしくていいと思う」
「どうだ、ロアリング。マリスはやる気だぞ。君も名誉を挽回するチャンスではないかな?」
今度はレネに挑発され、ロアリングは怒りで顔を真っ赤にしながら頭をフル回転させた。
マリスは鬼神のように強い、と将兵たちが言っていたが、半分はあの隣の女の力だ言う奴もいた。一対一であれば勝機はあるかもしれない――
「――よし、わかった。その勝負に乗ろう」
「では、いよいよ『石を巡る冒険』の最終章に――」
「待ってくれ」
再びナカツが立ち上がった。
「レネ、我々の石はどうするつもりだ?」
「途中まで言ったじゃないか。マリスに委ねると」
「それはだめだ。連邦が力でマリスと決着をつけるのなら、我々も同じだ」
「ん、という事は?」
「私とマリスを勝負させてもらいたい。もちろん私が負ければレネの言葉通りにするが、私が勝てば石は総取り、今度はロアリングと決着をつける」
「しかしそれでは不公平じゃないか?」
「構いませんよ」
マリスはナカツを正面から見つめて言った。
「僕もこの先を考えたら、是非ナカツと勝負をしたい。ナカツとロアリング、両方との勝負を受けます」
「待て。こちらが先だ」
ロアリングが主張し、マリスは苦笑いした。
「わかったよ。ロアリングとナカツ、どちらとも勝負します」