8.5. Story 3 連邦参戦

3 市街戦

 市街での銃撃戦が始まった。
 姿を隠しながら銃撃を仕掛ける相手を前にナカツとムナカタはツクヨミを守りながら後退を続けた。
「ムナカタ、背後に敵は?」
「大丈夫だ。ピエルイジたちが押さえ込んでるし、スピンドルの秘密兵器もあるみたいだしな」
「何としてもここを突破されないようにしないといけないな」

 ポートに続く大通りに出た所で敵がナカツたちの左右に展開し、取り囲むようにして包囲した。
「あいつら、まずはおれたちを叩き潰すつもりだぜ」
 ツクヨミをナカツと挟むようにして守っているムナカタが言った。
「ああ、注意しろよ。突撃してくるぞ」
 ナカツの言葉通り、前後左右から武器を持った兵士が姿を現し、突っ込んできた。
 ナカツは刀を抜き、ムナカタは大きな鉄棒を構えた。
「呑龍剣!」
 ナカツが刀を振るうと、幾筋もの黒い光が剣先から放たれ、前方の兵士たちは、ばたばたと倒れた。
 背後の敵にはムナカタが鉄棒を振るい、兵士たちは近寄る事すらままならなかった。
「まずいな。向こうの数が圧倒的に多い。やられるのは時間の問題だ」
「背後の方が圧が強くない。少しずつポートに向かって下がろうぜ」

 
 この戦いを少し離れた建物の屋根の上から二人の男、プロトアクチアの残党狩りを続けるリチャードと茶々が見ていた。
「見慣れない奴らが戦ってんなあ」
「うむ。だが片方は二人だぞ。二対数百、勝負にはならん」
「オレが気に入らないのはプロトアクチアの残党狩りだって触れ込みじゃねえか。残党にあんな若い奴らはいねえ」

 茶々はそう言うと屋根伝いにぴょんぴょんと飛んでいき、すぐに一人の兵士の首根っこを捕まえて戻った。
「こいつに聞いてみるか――おい、お前ら。何者だ?」
 兵士はリチャードと茶々に気付くと、声にならない声を上げた。
「なるほど。ほんもんの連邦軍だな」
「だがエンロップの配下ではない」
 リチャードが兵士の顔をぐいっと覗き込むと、男は恐怖で怯えた声を出した。
「……ロアリング将軍です」
「だそうだ」

「ますます気に入らねえな」
 茶々は兵士の首筋に手刀を打ち込んでから言った。
「トゥーサンの懐刀がどうしてこんな場所まで出張ってくる?」
「さあ、あの襲われている二人、いや、三人か、に聞けばわかるんじゃないか」
「そういうこったな――よし、オレはあいつらに加勢する。リチャードは?」
「私はポートに行く。空にも何かありそうだ」
 リチャードと茶々は屋根を降りて、それぞれの方向に向かって走り出した。

 
 ポートに停めたシップの中で様子を見ていたマリスとアイシャは見知った顔がポートに駆け込んでくるのに気付いた。
「あら、あれ、スピンドルじゃない?」
「本当だ。やけに慌ててるな――さては、又騒ぎを起こしたのかな」
「皆、どんどん飛び立っていくわ」
「大変だ。上空にもシップがたくさんいて変な感じだった。もしもそのシップがスピンドルたちを捕えるものだったとしたら簡単には突破できないよ」
「あたしたちはどうするの?」
「石がここに来いって告げたんだから、きっと石がある。降りて探そう」
 マリスとアイシャは静かにシップを降り、騒ぎの中心に向かって歩き出した。

 
 上空に逃れたシップの中ではスピンドルがヴィジョンで連絡を取っていた。
「全員、無事か?」
「ブライトンがいない」
 ピエルイジの声がした。
「こっちもバティスがいない」
 ウイラードが言った。
「くそっ、やられたか。ブライトンの石も回収されたに違いない――こんな暴挙が許されるものか」
「おい、スピンドル」
 再びウイラードの声がした。
「石なんぞ気にするな。無事に《智の星団》に到着できりゃあどうでもいいんだ。だが空にもずいぶんと敵がいるな」
「何……ピエルイジ、バレーロ。すまんが先陣を切ってくれ」
「いいけど。あんたの秘密兵器とやらはまだ暴れてるんじゃないの?」
「わかった」
 スピンドルは一旦、ヴィジョンをホールドにし、アクーナを呼び出した。
「おい、アクーナ。適当な所で切り上げないと逃げ遅れるぞ。そこはナカツたちに任せて脱出し、こちらの警護に付け」
「ちっ、わかったよ。そっちに向かう」

 
 アクーナたちが戦いを切り上げ、死人の山を乗り越えてポートに向かう途中、金髪の男が三人を追い越していった。
「あ、あれ」
「どうした、ジョビント」
「今、追い越してった奴、どっかで見た事あんだよなあ」
「他人の空似だろ」
「そうかなあ」

 
 町に向かったマリスとアイシャは途中でアクーナたちとすれ違ったが、気付かれなかった。
「ねっ、今の」
「ああ、《鉱山の星》で痛めつけた連中だ。あいつら、本当に暴れるのが好きだなあ」
「マリスも同じじゃないの?」
「あんな輩と一緒にしないでくれよ。あいつらは狂ってる。生まれ変わる前の僕と同じだと言うなら納得するけど」
「……もう。ほら、騒ぎの中心が見えたわよ」
「どれどれ――えっ、たった二人を相手に何やってるんだ」
 あっけに取られる二人の前に一人の女性が近付いた。

 
 連邦軍に包囲されたナカツたちはさすがに疲労の色が隠せなかった。
「くそっ、きりがねえな」
 ムナカタが言った。
「でも包囲網の後方でも混乱が起こってる。きっと誰かが援護してくれてるんだよ」
「かーっ、嬉しいねえ。それにしても……あれ、ツクヨミはどこだ?」
「何、私の後、君の前にいたんじゃないのか?」
 ナカツは振り向かずに尋ねた。
「確かにそうなんだが、一瞬目を離した隙にいなくなってた。そういやあ、『来た』とか何とか言ってたな」
「来た?一体何が来たんだろう」

 
 マリスたちの前に現れたのはツクヨミだった。
「お願い。助けて」
「こんな所にいたら危険だ。安全な場所まで案内しますよ」
「そうじゃないの。あの二人を助けて」
「えっ、あなたは?」
「あたしの中の白い靄はあなたたちだった。あなたたちを見てわかった。あなたたちが救ってくれる」
「……何を言っているのかわかりませんが、お助けしましょう――アイシャ、いくよ」

 
 突然、ナカツたちを取り囲む包囲網の中心に一本の矢が撃ち込まれた。矢は地面にまっすぐ刺さったまま、ぶるぶる震えた。
 その場にいた全員が一瞬動きを止める中、今度は一人の人物がナカツたちと兵士たちの間に躍り出た。
「君たちを助けよう」
 マリスはナカツたちの方を振り向いて言い、兵士たちに向き直った。
「逃げる者は早く逃げるがいい。早くしないと大怪我する」
 誰も逃げようとしないのを見て、マリスは構えを取った。
「爆流!」
 マリスが拳を振るうと、そこから爆風のような気流が起こり、前方に一直線に飛んでいき、十人ほどの兵士を吹き飛ばした。
 マリスは更に二度、三度と拳を振るい、兵士の数は見る見る間に減っていった。

 後方からアイシャが声をかけた。
「そろそろよ」
「わかった」
 マリスはナカツたちに向かって言った。
「君たち、空は飛べるね。急いで空に退避するんだ。それっ!」

 
 マリス、ナカツとムナカタ、アイシャとアイシャに抱えられたツクヨミが空に飛び上がった瞬間、さきほどアイシャが撃った地面に刺さったままの矢が白い光を放ったかと思うと、地面が激しく揺れ、周囲五十メートルほどの地表が勢いよく吹き上げられた。
 揺れが収まり、マリスたちが地上に戻ると、立っている連邦軍兵士はほとんどいなかった。

 たった一人、倒れている兵士たちの後方から鼻歌交じりでやってくる男を見てマリスが声を上げた。
「茶々!」
「すげえもん見せてもらったぜ。お前はやっぱ凄いけどそっちの姉ちゃんも。バスキアと似た技を使う所から見ると――」
「茶々、積もる話はまた後で」

 
 マリスはそう言ってからナカツたちの方に振り向いた。ツクヨミも二人の下に戻り、安堵の表情を浮かべていた。
「助けて頂き、ありがとうございます」
 ナカツが言い、マリスは微笑みを浮かべた。
「さっき、スピンドルが慌てて飛び立つのを見た。君たちもチームの一員?」
「そうですが、君は?」
「ああ、僕は文月マリス。凄い弓の持ち主はアイシャさ」
「道理で桁外れに強いはずです。しかし文月の一員の君が連邦を蹴散らすというのは……」

「いいんだよ。連邦でもあいつらは胸糞悪い奴らだから」
 茶々が話に割り込み、マリスは首を傾げた。
「茶々、それはどういう意味?」
「それよりこいつらに用があるんじゃねえのか?」
「いや、そこにいる彼女に頼まれたから出しゃばったまでで……ああ、そうか。石の事を言ってるんだね」
「まったく鈍いな」

「マリス君。君も石を――私たちは先を急いでいる。今日の礼はいつか改めてしよう。私の名はナカツ、彼がムナカタで君たちに助けを求めた女性がツクヨミだ。覚えていてくれたまえ」
「ナカツ」
 ツクヨミがいつもとは違う切羽詰まった口調で言った。
「マリスは信じるに足る人物よ。あたしが言うんだから間違いない」
「さっきの強さを見れば、それは十分すぎるくらいわかってる。だが今の私はグリード・リーグに雇われた人間だ。まずは任務を全うしないと」

 
 そこにリチャードがふらっと現れた。
「リチャード」
「マリスじゃないか。ずいぶん派手にやったな」
「どこに行ってたの?」
「この青年たちのお仲間が脱出するのにずいぶんと妨害が多かったんでそっと掃除しておいた」

「あなたはリチャード・センテニアですか?」
 ナカツが尋ねた。
「そうだが」
「私はかつての帝国将軍スクナの息子、ナカツです」
「懐かしいな。骨のある青年だったが、お前、よく似てるよ」
「それはどうも。しかしリチャード殿まで連邦に牙を向いてよろしいのですか?」
「こそこそ物事を進めるのは好きじゃない。とはいうものの暗殺者のような事をやっている」
「おかしな方たちですね」
「そんな事より、全員この場を早く離れた方がいいぞ。ロアリングは青筋立てて怒ってるはずだ」

 
「ナカツはどこに向かうんだ?」
 茶々が尋ねた。
「《智の星団》と聞いています」
「そいつはきな臭いな。そっちの姉ちゃんも同じ事思ってるはずだぜ」
 ツクヨミは黙って頷いた。
「先ほども言いましたようにまずは任務です。では私たちはこれで」

 ナカツたちが行って、リチャードが言った。
「さて、我々も行こうじゃないか?」
「行こうってどこだよ?」
「そうだな。ロクのいる《囁きの星》なんかどうだ?」

 
 《泡沫の星》の大気圏外で報告を受けたロアリングは青ざめた。
「何という事だ。あいつらを過小評価していた」
「『チームRP』の戦力を削る事には成功し、又、その遺体より石を二つ回収いたしました」
「ふむ。だが石二つに三百人か――その最後に現れた青年の身元をすぐに調べるのだ。とんでもない強敵かもしれない」

 

 『血涙の石』、『純潔の石』:マリス所有
 『老樹の石』、『禍福の石』、『火焔の石』:連邦所有
 『戦乱の石』、『隠遁の石』、『天空の石』:レネ・ピアソン所有
 『黄龍の石』、『魚鱗の石』:ナカツ所有
 『虚栄の石』:公孫風所有
 『変節の石』:ビリンディ所有
 『全能の石』:ゾモック所有
 『竜脈の石』:ニコ所有
 『深海の石』:くれない所有

 

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 Story 4 虎の尾を踏む

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