8.3. Story 1 名乗りを上げる者たち

4 覇権再び

 《地底の星》は外から見ると普段通り、暗く静まり返っていたが、一歩中に入れば最小限の柔らかな明かりが灯り、地下広場には多くの人が集っていた。

 ミーダはその中をのんびりと歩いた。
 人々は皆、楽しそうに語らいながら思い思いの時間を過ごしていた。遠い《蠱惑の星》のホールロイ鉱山でも『地に潜る者』たちは解放され、平穏に暮らしていると聞いた。
 この平和な光景、これはこれでいいのかもしれない、ミーダは最近そう思うようになった。ミーダだけではない、王ネアナリスも生まれた子、ミーニオス王子に夢中で以前のように「三界の覇権」とは言わなくなった。

 そんなミーダの感情をかき乱すように、広場の一角で演説をする若者の姿と声が飛び込んできた。
 若者は最近のネアナリスが連邦に阿って、軟弱であると責め立てていた。
 一昔前であればこんな演説をする人物はすぐに投獄されただろう。これが許される現在は幸せなのだぞ、ミーダは演説者と聴衆を横目でちらっと見ながら心の中で一人思った。

 
 数日後、ミーダが広場を散歩していると再び演説の一団に出くわした。
 今度はそのまま通り過ぎずに立ち止まって演説の内容を聞いた。
 どうやら演者の若者は出戻り組、ホールロイ鉱山から戻った人物らしかった。『持たざる者』がこの世の春を享受し、自由な世界を支配しているのに対して、地に潜る者の世界が閉鎖的で前近代的であると訴えかけていた。
 ミーダが足を止めて聞き入っていると演者と目が合った。若者は演説を中断し、ミーダに近寄った。

 
「ミーダ殿とお見受けしたが――」
「ああ、そうだ」
 ミーダは心の中で舌打ちした。演説の内容からして王の側近の自分には言いたい事が山のようにあるはずだった。
「実はあなたをお待ちしていたのです」
「ん、まずはお前から名乗るのが礼儀だろ?」
「失礼しました。私の名はゾモック。《蠱惑の星》の出身です」
「そうみてえだな。ホールロイ鉱山からの引き揚げ者か?」
「はい。十年ほど前に鉱山が解放されたのでこうやって自由を手にしました」
「……お前、どっか違うな」
「――私は『地』と『空』のハーフです」
「ふーん、恥ずかしい話だがその手のハーフに会うのは初めてだ。さぞや苦労したろうな」
「言ったじゃありませんか。解放されてからというもの、楽しくやっていますよ」
「ん、そうなのか。じゃあ何だってこんな批判めいた演説やってんだ?」
「あなたに聞いてもらうためですよ、ミーダ」
「……てめえ、何企んでる?」
「最近世間を騒がせている石の話をご存知ですか?」
「ああ、知ってるよ。おれも試しに探してはみたがここでは見つからなかった」
「残念ですね。願いを叶える資格がなかった」
「何を言いたいんだ?」

 ゾモックは小さく笑って、懐から輝く石を取り出した。
「創造主ヒルを表す『全能の石』、ホールロイで掘り出したんですよ」
「ははん、じゃあお前はその資格十分って所だな。せいぜい頑張れや」
「私一人では無理です。だからあなたを誘いに来たんです」
「なるほどな。だが残念ながらおれはもう外を出歩くつもりはねえんだ」
「果たしてそうでしょうか。あなたの後悔の気持ち、消えているとは思えませんがね」
「……おれの機嫌が悪かったら、この場でその首を掻き切ってるぜ」

「あの事故では私の父も多くの仲間を失ったそうです」
「つまりはこういう事か。十八個の石が揃えば、おれの願い、コルミロを救えるのか?」
「幾つの願いを叶えられるかは知りませんが、一つしか願いを叶えられないのであれば、かつての” Resurrection ”の石のようなものを望めばいいだけでしょう」
「お前の目的は何だ?」
「持たざる者に一矢報いる事」
「――少し考えさせちゃくれねえか」
「わかりました。私は毎日ここにいますので」

 

 『血涙の石』:マリス所有
 『戦乱の石』:レネ・ピアソン所有
 『虚栄の石』:公孫風所有
 『変節の石』:ビリンディ所有
 『全能の石』:ゾモック所有

 

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