8.3. Story 1 名乗りを上げる者たち

2 武人の誉

 《武の星》には長い歴史がある。そしてその歴史の大半は公孫家、とりわけ本家の人間によって紡がれてきたと言っても過言ではない。

 公孫風(ふう)は陽の目を浴びない分家の人間だった。
 水牙の父、転地の祖父の兄弟に始まる家系で、戦場では旗持ちを務めていた事から『棒持の家』という名で通っていた。

 風の父、厳炎は不運だった。連邦、帝国、王国の三つ巴の戦いの時に、旗持ち――もちろんシップ同士での戦闘で軍旗をはためかせる事などなかったが、大きく紋章の描かれたシップに乗り、船団の先頭に立つのが旗持ちの役目だった――を務めていたが、帝国のホルクロフト将軍との対峙の際に、隕石がシップに衝突し、大怪我を負った。
 怪我が癒えた時には王国は滅びており、手続きのごたごたもあって、連邦軍には予備兵として登録されたきりで、戦場に復帰する機会はなかった。

 
 帝国滅亡後、納得しない残党が《茜の星》を根城に抵抗活動を始めた。
 急速に版図を拡大し、人手が足りなかった連邦軍――連邦軍は当時から現在に至るまで慢性的な人材不足にあえいでいる――は厳炎に一隊を任せた。
 厳炎の隊は附馬烈火の軍と《虚栄の星》方面のディスプローズの軍がカバーし切れないエリアの警備を受け持った。
 厳炎の隊はよく働き、功績を認められ、《茜の星》の帝国残党の討伐に参加する運びとなった。

 この戦いでまたしても不運が厳炎を襲った。
 厳炎の隊の指揮は附馬烈火の弟、業火が務め、厳炎はその補佐だった。
 麓の村の住人からの情報によれば、帝国残党はかつてジュヒョウが暮らしていた城に立て籠もっているという事だった。
 業火の隊は厳炎とわずかのシップを残して、全員地上に降りて城を攻める決定を下した。

 ところが情報は真っ赤な嘘だった。空中に待機していた厳炎と部下の数隻のシップは突如現れたスクナ将軍の率いる船団に襲撃された。
 スクナの軍の勢いは凄まじく、厳炎たちは瞬く間に敗走させられた。この戦いで厳炎は重傷を負い、《武の星》への帰還を余儀なくされた。
 そして家族、幼い風の看取る中、その生涯を終えたのだった。

 
 敗軍の将の息子、それが風に与えられた呼び名だった。
 人より秀でた所を見せても、「どうせ敗軍の将の息子だから」と言われ、まっとうな評価を得る事はなかった。
 公孫水牙と開都の長老たちだけが風の資質を見抜き、連邦軍の将校として取り立てたが世間の評価は変わらなかった。
 何とかして世間を見返したい――風はそれだけを考えて生きていた。
 そして今、そのチャンスが巡ってきたのだった。

 
 風は開都の大路にある酒場に友人の附馬青嵐を呼び出した。青嵐は業火の息子で、彼も又、世間の容赦なく冷たい視線を浴びていた。
「どうした、風?」
「すまんな。忙しい所を」
「いや、構わんが」

「これを見てくれ」
 そう言って風が懐から取り出したのは透明な石だった。
「ん、これは?」
「創造主ウムノイの『虚栄の石』だ」
「今、世間を騒がせているあの石か。どこで手に入れた?」
「《不毛の星》だ。巡回中に砂漠に光るものが見えたので行ってみたらこれが埋まっていた」
「大事だぞ。お館様には伝えたか?」
「いや、まだだ」
「何やってるんだ。まだ正式に連邦の決定は為されていないが、世界を変える可能性があるという話じゃないか」
「その通りだ」
「お前、まさか?」
「ああ、自分はこれが偶然ではないと思っている。これは石を集めろという啓示だ」
「……」

「この話をした理由もわかっているな。お前ならわかってくれる、そう思ったからだ」
「……名誉を取り戻すのか?」
「自分やお前が受けた屈辱を忘れてはいまい。今こそ立ち上がる時なのだ」
「長老殿には?」
「知るか――お前がやらないなら自分一人でやる」
「待て。誰がやらないと言った」
「ならばやってくれるか?」
「うむ。一花咲かせよう。風、チームRPの発表を見たか」
「この騒動のそもそものきっかけだからな」
「あのクルーの中にスクナ将軍の忘れ形見、ナカツがいる」
「な……それは本当か?」
「親の汚名をそそぐチャンスでもある」
「仇討とは前時代的だな。だが場所がわからん」
「安心しろ。チームRPの情報ボードにアクセスすれば最新の居場所が特定できる」
「ではナカツの下に乗り込むか」

 

 『血涙の石』:マリス所有
 『戦乱の石』:レネ・ピアソン所有
 『虚栄の石』:公孫風所有

 

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