目次
3 プロトアクチア
遺跡の調査に向かうヘキとその案内のロク、オデッタと別れ、ハク、セキ、デズモンド、ケイジを乗せたエンロップの一隊は《古城の星》を目指した。
一行が星に接近すると、すでに巨大な要塞都市のあちらこちらで煙が上がっていた。
「しまった。親父に先を越されたか」
エンロップが悔しそうに言った。
「おい、エンロップ」
デズモンドが大声を上げた。
「早いとこわしらを降ろせ。暴れられんだろう」
「え、はい」
「お前はここで待機していろよ。飛び出してくる奴をやっつければいい」
デズモンド、ケイジ、雷獣に乗ったハク、ヌエにまたがったセキが嬉しそうにポッドから地上に飛び降りていった。
地上に降りたデズモンドたちは息を呑んだ。
「何だこりゃ、どこに行けばいいんだ」
目の前に広がるのは意志を持たず、ただ無秩序に融合した構造物とその隙間を流れる毛細血管のように張り巡らされた道の集合体だった。
「どこから入っても迷子だね」とセキが言った。
「仕方あるまい。敵は奥深くにいるのだろうから入っていかない訳にはいかぬ」
ケイジがそう言って、一本の道に向かおうとした時に右手から見慣れぬ制服を着た一団が走ってきた。
一団はデズモンドたちの前で止まり、その中から背の低い男が群れをかき分けるようにして前に進み出た。
「連邦の方々とお見受けするが」
背の低い男は甲高い声で尋ねた。
「ああ、無法者にしか見えねえかもしれないが確かに連邦だ。少なくともこっちの若いの二人はな。で、あんたは誰だ?」
尋ねられた背の低い男は思い切り背筋を伸ばした。
「我々は化泉城の守備隊、私は隊長のダスク・ティル・ドーンという者です」
デズモンドはお構いなしに続けた。
「わしらは急いでんだよ。それとも何か、一戦交えにきたのか?」
「連邦はプロトアクチアの行方をお探しではありませんか?」
「そうだよ。だがこの入り組んだ道に入り込んで迷子になるのも嫌だな、と思案してた」
「でしたらここではありません。ここは紅鶴城ですが、奴はもっと左手に向かった先の軍象城におります」
「ふーん、あんたの言葉を額面通りに受け取っていいもんかな。あんただってこの星の住人だろ?」
「詳しい事を申し上げると時間がかかりますが、プロトアクチアごときのために破壊し尽されては困るのです」
「へっ、確かに連邦はチオニで破壊の限りだったらしいしな。なっ、ケイジ」
「ドノスを引きずり出すためにはあれしかなかった。ところでお主……」
「ケイジ殿のお察しの通りです。私はかつてデズモンド殿の旧友、監督に呼ばれて《青の星》に赴いた事があります。リチャード・センテニアと戦うためでしたがそれは叶いませんでした」
「……まさか監督の名前を聞くとは思わなかったよ。あいつ、生きてやがったんだ」
「デズモンド」とケイジが言った。「監督と言うのは例の黒眼鏡の男か」
「わしのノカーノ探しを手伝ってくれた男だ。あの戦争で死ぬつもりだと言ってたくせによ」
「で、どうする。この男の言葉を信じるのか」
「そうだな。迷子になるくらいなら罠に落ちた方がましだ――なあ、案内してくれるかい?」
「騙すつもりはありません。どうぞ、付いてきて下さい」
ダスク・ティル・ドーンに連れられた一行は、紅鶴城を回避し、その先の軍象城に向かった。
軍象城の前に着くと連絡を受けていたゼクトたちも合流した。
「協力感謝するぞ。自分たちはこの広場で出てくる者を捕らえるので、それぞれ好きな道を進んで暴れて構わん」
「へへへ、ロイの息子はわかってんじゃねえか。でもよ、ここにいるダスク何とかさんが案内してくれるから分別なく破壊する訳にもいかないんだ」
「その通りです」
ダスク・ティル・ドーンが甲高い声で言った。
「あなた方から見れば無秩序なジャンク都市かもしれませんが、我々にとっては大切なホームタウンです。私の案内に従えば、すぐにプロトアクチアの下にたどり着きますので、不要な破壊は慎んで頂きたい」
「へっ、まるで遠足だがあんたの言う通りだ。じゃあプロトアクチアの所に行こうぜ」
ダスク・ティル・ドーンの言葉通り、軍象の中心からやや奥に入った所で、プロトアクチアを始めとする数十名に遭遇し、戦闘状態に突入した。
数十分後には決着がつき、プロトアクチアを始めとする幹部たちは軍象城の前の広場に引き立てられた。
ゼクトが口を開いた。
「プロトアクチア、ドリーム・フラワーを使って銀河を混乱に陥らせた罪で連邦裁判所に連行する」
「――」
「おいおい、ロイの息子」
突然にデズモンドが前に進み出た。
「こいつはそんな小悪党じゃねえぞ」
「ん、デズモンド。それはどういう意味だ?」
「こいつは《商人の星》のダッハやセムと共謀して《賢者の星》に兵器を売りつけ、そのせいで星は滅びた。金と力を手にしたダッハとセムがロリアンと連邦を食い物にしたって寸法だ。銀河の混乱の一因だって言っても言い過ぎじゃない」
プロトアクチアは縛られ座ったままで、デズモンドを睨みつけた。
「ふん、前世紀の遺物め。さすがは『クロニクル』の編者だ。よく調べてるじゃねえか」
「ありがとよ」
「そんなお前でもおれが何故、《賢者の星》を滅ぼそうと思ったかまではわかるまい」
「金じゃねえのか?」
「金は腐るほど持ってる。何しろ、この星に来るような奴はロクなもんじゃない。そんな奴らから金を分捕って暮らしてたからな」
「じゃあ何だ?」
「先祖のノームバックの仇を取りたかった」
「――なるほど。あっちはノカーノの末裔だもんな。だとすると、ここにいる文月の息子たちにとってお前は仇だな」
「?」
「こいつらもまたノカーノの血を引く者だ」
「ふっふふ。因果応報って訳か。結局、仇を討たれちまったなあ」
「まあ、残りの人生はお前のせいで失われた魂に詫びて過ごすんだな」
「……なあ、あんた、偉大な書物の編者にしちゃあ、抜けてるな」
「何だよ、いきなり」
「《青の星》に長い間住んでて、色々と気付かなかったのか?」
「……お前の言いたいのは?」
「さあな。まあ、頑張ってやってくれ」
プロトアクチアは《七聖の座》の監獄に収容されるために連邦兵士に連れていかれた。