目次
2 Magneticaの最後
栽培場の最期
砦の中に広がっていた栽培用や抽出用の施設は雷獣とヌエによって徹底的に破壊された。雷獣が雷を落として回り、ドリーム・フラワーの元となっていた植物は燃やされた。
地上にいた兵士たちはハクたちに倒されるか、投降をした。
燃え盛る栽培棟の煙にむせながらセキが言った。
「そう言えば、エンロップたちはどうしたかな?」
「ああ、《古城の星》からも援軍が来ていたようだし、まだ交戦中かもしれない」
ハクの言葉が合図となったかのように空中に連邦のポッドが姿を現した。
ポッドは燃える砦を避けてジャングルの平坦な場所に停止し、エンロップがやってきて言った。
「どうやらドリーム・フラワーの息の根を止めたようだな」
「そちらはどうだったんだ?」とハクが尋ねた。
「同時テロで脅された時に、一部のポッドには逃げられたが、それだけだな」
「プロトアクチアだな」
「武器商人か?」
「ああ、その妻のジーズラと息子のジャンガリは討ち取った」
「とすると、このまま《古城の星》まで一気に攻め込むべきか」
「だがその前に同時テロがどうなったかを確認しよう」
最初にハクが《七聖の座》に連絡を入れた。チオニとヌエヴァポルトの惨事は連邦軍によって防がれたようだった。
次にヴァニティポリスのランドスライドと連絡を取った。
「やあ、ハク、おかげで大事になるのを阻止できたよ」
「それはよかった。でもランドスライド。どうして戻っていたんだい?」
「チオニで色々あってね。怪我の功名ってやつだ。ケリがついたらちゃんと話すよ」
「わかった。じゃあ」
最後にセキがもえに連絡を取った。
「ああ、セキ。大変だったけどどうにか間に合ったわ」
「美木村さんや蒲田さんかい?」
「ええ、でもどんな手段かわからなかったの。そしたら順天から連絡があって『貯水池に撒かれる』って。それで多摩貯水池に急行して、そこで大立ち回りの末――」
「順天が?」
「ええ、竜王の娘だから、水の事なら何でもわかるんですって」
「ふーん、でも何もなくてよかったよ」
「こっちには戻れるの?」
「うん、もう少しでドリーム・フラワーを根絶できそうなんだ。そうしたら帰るよ。面白い人を連れて」
「面白い人?」
「詳しくはまた後で」
魔王を目指す者の到着
空から一隻のシップが降りてきた。特徴のある流線型のシップ、ジルベスター号からリチャードと茶々が姿を現した。
「あれ、リチャード、それに茶々も。《虚栄の星》に行ってたんじゃなかったっけ?」
ヴィジョンを切ったセキが尋ねた。
「この星に探し物があるという託宣を受けた。途中で邪魔なシップやポッドを破壊しながら来た」
「探し物?ドリーム・フラワーの栽培場はご覧の通りだよ」
リチャードは煙を上げるジャングルを見回した。
「なるほどな。さて、どうしたものか」
「リチャード。焼け跡を探してみねえか。チオニの時も雷獣が雷を落とした後に石があったって言うから同じかもしれない」
茶々はそう言ってさっさと栽培棟のあった方に向かって歩いていった。
リチャードも歩きかけたが、視界の端にケイジと話すデズモンドの姿を捉えて立ち止まり、首を傾げた。
デズモンドは笑いながら手を振り、リチャードもそれに応えた。
しばらくして連邦の兵士が男の死体を発見したと声を上げた。男は栽培棟の地下に隠れていた所を炎に巻かれ、蒸し焼き状態になって死んだようだった。
作業着を着た老人がハクたちの下に運ばれた。
「この男は?」とエンロップが尋ねた。
「はっ、ドリーム・フラワーの親株を持ち出そうとした時に襲撃に遭ったのでしょう。親株の入った箱をぶちまけた傍で倒れておりました」
「――さっきジーズラが言っていたレラヴィントフという男か」
栽培棟から戻ったリチャードが言った。
「レラヴィントフというのはドリーム・フラワーの精製に深く関わっている科学者らしい。プロトアクチアの援助の下、ここで研究をしていたのだろう」
兵士たちがレラヴィントフの体を地面に横たえると、その懐から何かが転がり出た。真っ青な色の石だった。
「見つけた――おい、茶々、” In and Yan ”があったぞ」
リチャードの声を聞き付けて茶々も戻った。
「よっしゃ、これで準備完了だな。とっとと行こうぜ」
茶々が石を手に取ろうとするとハクがそれを止めた。
「おい、茶々。何を企んでいる。勝手に石を持ち出してはいかんな」
「固い事言うなよ。この石が必要なんだよ」
「――本当か。リチャード?」
「ああ、本当だ。この石をしばらく貸してほしい。その代わり、もう一つの石も一緒にコメッティーノの下に持っていく。それでどうだ?」
「いいと思う――ヘキ、今の話を聞いていたかい?」
遺跡の在り処
ヘキとロク、それにオデッタが近付いた。
「ええ、問題ないんじゃないの」
「ありがとよ」
茶々はロクを見て言った。
「何だ、ロクもいたのか。ずいぶんと逞しくなったんじゃねえか?」
「今、話を聞いてたのよ。この界隈じゃ英雄らしいわ。《智の星団》からの初の生還者、しかも伝説のデズモンド・ピアナを連れ帰った男だって」
「ああ、やはりあれがデズモンドか」
リチャードが声を上げた。
「父も世話になったようだし、礼でも言っておくか」
「そんな事より早く出発しようぜ」
「ちょっと茶々」
ヘキが言った。
「あんた、《密林の星》に顔を出していきなさいよ。ワイオリカが心配してるわよ」
「ちっ、仕方ねえな。そうするよ。でもヘキは何でワイオリカに会ったんだ?」
「遺跡調査に決まってるじゃない。まあ、調査っていうよりも遺跡の出す憎しみの感情にどこまで耐えられるかの訓練だけどね」
「……遺跡……遺跡……そういゃあ《狩人の星》にもあるような話だったぜ」
「えっ、それ本当?」
「ああ、町の人間がちょろっと言ってた」
「すみません」
オデッタが口を挟んだ。
「遺跡とは何?」
「ああ、オデッタはそっちの専門家だもんね。紹介するわね。あたしの弟の茶々と七武神の一人、リチャード・センテニアよ」
茶々とリチャードは挨拶をし、オデッタも挨拶を返した。
「何だ、ロクの彼女か」
茶々は言った。
「ロクは王様になっちまうんだな」
「まだそう決まった訳じゃないよ」
「それより」とヘキが言った。「オデッタ、何か心当たりがあるの?」
「ええ、《囁きの星》に大秘境地帯という広大な山谷があるんですけど、その一角に妙なものがあって――他のエリアは前の世界の忘れ物じゃないかって思えるんですけど、そこだけはそれでは説明つかなくて」
「それ、きっとあたしの探してるものだわ――ちょっと待ってて」
ヘキはケイジを連れて戻った。デズモンドも興味深そうな表情で付いてきた。
「――という訳で《狩人の星》と《囁きの星》、これで一気に遺跡の数が七か所になった可能性があるのよ。先にどっちに行けばいいかしら?」
ヘキが説明するとケイジが静かに言った。
「《密林の星》でも言ったが、これはお前ら文月一族の問題だ。私には関係ない」
「……」
「それに私はこれから《古城の星》攻めに参加する。お前に付き合っている暇はない」
「うん……」
このやり取りを見ていたセキがロクに耳打ちした。
「ヘキの様子が変だね?」
「ああ、しおらしいというか……」
「でも」とヘキが困った表情で続けた。「邪蛇は具体的な場所を教えてくれなかったから確認しないと……」
「邪蛇かあ、懐かしいな」
突然にデズモンドが大声を発したので、皆、そちらに注目した。
「デズモンド、邪蛇を知ってるの?」
「ああ、若い頃……最初の大航海でしょっぱなに寄ったのが《不毛の星》だった」
「遺跡の話をした?」
「実際に遺跡にも行ったさ」
「……何か異変が起こらなかった?」
「いや、普通の遺跡だったぜ」
「言ったろう」とケイジが言った。「文月の一族だけに異変が起こると。他の者には関係ない話だ」
「まあまあ」
デズモンドが割って入った。
「なあ、茶々、オデッタ。その遺跡の近くに龍にまつわるものはなかったか?」
「ん、龍か。よくわかんねえな。話を聞いただけだしな」
「《囁きの星》だったら、『黒龍の谷』の事かしら?」
「なるほど。その遺跡は本物だな」
「デズモンド、どうしてそんな事言い切れるの?」
「わしも色々と調査した時に《長老の星》のバーウーゴルって奴がヒントをくれたんだ。一つ目は深き緑の地、これは《密林の星》だな。二つ目は忘れられた民の地、これが《狩人の星》かどうかはわからない。そして三つ目は龍の山のある地、これが《囁きの星》だ」
「だとすると確実で近い《囁きの星》に行くべきね。《狩人の星》については――」
「わしも行った事があるが、ここからは遠いぞ」
「じゃあ《囁きの星》にするわ。皆は《古城の星》攻めがあるんでしょ?」
「私はヘキを案内します」とオデッタが言った。
「ぼくもオデッタと一緒にセーレンセンに戻るよ。ジャンガリの残党がいるかもしれないし」
「私たち、セキやエンロップは《古城の星》だろう?」
ハクが確認をし、セキとエンロップは頷いた。
「私も助太刀しよう」とケイジが続いた。
「私と茶々は急用があるので《鉄の星》に戻り、その後で《魔王の星》に行かねばならない」
リチャードが言うとデズモンドが首を傾げた。
「おいおい、ジャウビターの封印を破壊して魔王を復活させるんじゃないだろうな」
「ははは、デズモンドの言う通りさ。ここにいる茶々が新しい魔王になる」
「ふーん、そりゃ面白そうだ。立ち会いたい所だが、わしは《青の星》に戻らんといけないから《古城の星》にするかな」
「《青の星》には僕が連れてくよ」とセキが言った。「ロクはこっちに戻るし、ハクもすぐに出かけるだろうから」
「おお、そうかい。でもお前は嫁さんに早く会いたいだけだろう?」
デズモンドの一言に全員が笑った。
「うん、もえのお腹の中に赤ちゃんがいるんだ」
「お前、表情とかは大都に似てるが、手が早い所は全く似てないな」
デズモンドのさらなる一言にまた全員が笑った。
『マグネティカ』の破壊
リチャードと茶々が”In and Yan”を手に出発して間もなく、一人の連邦兵士が駆けこんできた。
「はあ、はあ……《密林の星》との間の小惑星に妙なものが――」
「――それって宙に浮いてる塔みたいなものじゃない?」
セキの質問に全員が首を傾げたが、兵士は大きく頷いた。
「どうしてそれを?」
「『ウォール』の時もそうだった。それがきっと『マグネティカ』の増幅装置だよ。壊しに行こう」
「ん、お前らで行ってこいや」
デズモンドが言った。
「わしはケイジと『胸穿族』を訪ねるから。又、ここで集合な」
結局、ハク、ヘキ、ロク、セキ、それにオデッタの五人で宇宙空間に向かった。セキの言葉通り、小惑星の上には不思議に捻じれた塔が建っていた。
「同じような塔の中に石が埋まっていたんだ。塔を壊すと石は反動で飛んでいこうとするから、僕が重力制御する。塔を壊すのは……ロク、そのメイスでがつんとやってよ」
セキの言葉に従ってロクがメイスで塔を思い切り叩いた。数回叩くと塔にひびが入り、やがてそこから黄金色に輝く石が飛び出した。セキはその石を慎重に受け止め、にこりと笑った。
「これで銀河の通行を妨げてたものは全部なくなったはずだよ」
「よし、早速連邦に知らせよう」
ハクが嬉しそうに言った。
「《古城の星》攻めの援軍が間に合うかもしれないぞ」
「そうか」とロクが感慨深げに言った。「《囁きの星》に行くにもアステロイドを通らず普通に行けるんだな」
ハクたちが《霧の星》に戻るとケイジとデズモンドも戻っていた。
そこにエンロップが出撃の準備を終えてやってきた。
「なあ、『マグネティカ』がなくなったなんて信じられないなあ。急いで連邦軍が調べたが、やっぱり何もなかったそうだぞ」
「よし、気付かれる前に攻撃を仕掛けよう」