7.7. Story 3 《智の星団》

4 悪夢の未来

 ロクのポッドは三度、出発した。
「あとはエクシロンに会えば全て予定通り。その先に待っているのは――」
「待っているのは?」
「サフィさ」

 
 ポッドが《機械の星》の大気圏を抜けた。今回の旅で初めて見る大都会が眼下に広がっていた。
 隙間なく立ち並んだ高層ビルの林の間をシップがゆっくりと航行し、柔らかな光が暗闇の中に都市を浮かび上がらせていた。
「初めて文明らしきものがある星に来たね」
「あら、今までの星にも文明があったわ。多様性だって言ってたじゃない」
「言葉足らずだった。ぼくらの文明に近い星って言うべきだった」
「でもウシュケーの言葉が気になるの。何だか嫌な予感がするから私はポッドの中で待機しているわ」
「オデッタでも心配する事があるんだね」
「だってここまで来て失敗する訳にはいかないでしょ。こういう安全そうに見える星ほど用心しなきゃ」
「わかった。じゃあどこかにポッドを停めてぼくが一人で街に行く」
「何かあったら?」
「ポータバインドで連絡を取り合うのは無理だろうから――」
「から?」
「勘を信じよう。きっとお互いの心の叫びを聞けるはずだ」
「ロマンチストね」

 
 ロクはポッドを街から離れた森に停め、一人で街に向かった。光に包まれた街路の上で周囲を見回した。
 歩く人の姿は見当たらず、歩道だけが静かに動いていた。
 ロクは行先を告げずに動く歩道に乗った。
 街の中心部で歩道を降りたロクは首を傾げた。
 ここに来るまでに誰にも出会わなかった。空を見ればシップが何隻も行き来しているのに、歩行者が誰もいないのは妙だし、立ち並ぶビルにも人の気配がしなかった。

 おかしいな、ロクがそう思い、歩道の脇で佇んでいると突然に街の奥から動くものが現れた。
 戦車のような装甲車と完全武装した男たちの一団だった。彼らはロクに向かって移動してきた。
 まずい、ロクは咄嗟に状況を理解し、逃げ場を探した。どちらに行けばいいのだろうか、悩んでいると背後で声がした。
「こっちだ」

 
 ロクは声に従い、ビルとビルの間の人一人がやっと通れそうな細い隙間に飛び込んだ。無我夢中で走り抜け、肩で息をしていると又、声がした。
「まったく不用心だな。丸腰で街に立つなんてよ」
 ロクは声の主を見た。顎髭を生やし、ベレー帽を目深にかぶった若者だった。
「……この星は一体?」
「――あんた、他所の星の人間か。だったら説明してやるよ。この星は《機械の星》、その名の通り、機械が支配しているいかれた星さ」
「という事は、あなたは?」
「自己紹介がまだだったな。おれはシドラン、機械支配に反抗するゲリラって所かな」
「そうですか。ぼくはロクです。お察しの通り、他所からやってきました」
「ふーん、まあ、街中をうろうろすんのは危険だ。仲間の所に案内してやるよ」

 
 妙な事になったぞと思いながらロクは街はずれの古いビルの地下室に連れていかれた。地下室には五人の男女がたむろしていた。
「あら、シドラン。誰?」
 席に座っていた赤毛の女が尋ねた。シドランがロクを紹介し、五人の男女も名前を名乗った。
「へえ、ロクは他所から来た人間なんだ」
「そう、ぼくはこの星の実態が知りたい――これがぼくらの星にも起こりうる未来なのかどうか」
「起こりうる?ははは、何、寝ぼけた事言ってんだい。そんなんじゃあ足元すくわれるぜ」
 男女はてんでに騒ぎ出し、シドランがそれを止めた。
「まあまあ、ロクはまだ着いたばかりで状況がわかっていないんだ。おれからこの星の歴史を話させてもらうよ――

 
 ご存じの通り、この星は《機械の星》だが昔はちゃんと人間が支配していた。文明は進歩し、人間がやるべき事を全て機械にやらせるようになった。人間がする事といえば、朝から酒を飲み、議論をし、面白おかしく過ごしていればいい、そんな感じだったらしいんだ。
 この素敵な機械文明を生み出したのは『科学財団』だった。そこに一人の天才科学者、コワントラン博士がいた。博士の作り出す機械はどれも素晴らしく、単純作業に限られていた機械の領分をどんどん知的な分野にまで広げていった。そして人間はますます怠惰になった。
 そして、ついに博士は最高傑作と呼ばれるメサイアを完成させた。メサイアはこの星の重要な意思決定を人間に代わって行ってくれる理想の機械だったんだ――

 
「ここまで言えばわかるだろ?」
 シドランは話を切ってロクを見た。
「ええ、メサイアが暴動を起こした」
「そう、まあ、正確に言えばメサイアはただ『機械が人間を支配するべし』という意思決定をしただけだった。それに基づいて機械たちは一斉に人間をその支配下に置くべく行動を開始した。怠惰に慣れ切っていた人間たちは他愛もないもんだった。あっという間に機械に駆逐され、ある者は殺され、生き残った者はおれたちみたいにひっそりと隠れて暮らしているって訳だ」
「じゃあ、あのシップは?」
「あれには人なんか乗っちゃいないさ。ただ機械が習慣通りに運行しているだけさ」
「『支配』と言ってもそれによって機械は何をしたいんでしょう?」
「さあ、おれに訊かれても困るな。でもメサイアは最高の頭脳を持ってこの星にとっての最良の決断をした。それが『人間ではなく機械が支配する事』だった、それだけさ。人間みたいに怠惰に過ごし、欲にまみれた生活は良くないと考えた。だってメサイア自身が『何かをしたい』って欲を持ったら、その段階で人間と同じだ」
「確かにそうです」
「最高の頭脳の考えはわからねえよ。いや、おれたちみたいな人間の考えもメサイアには理解できないだろうな」
「つまりは『支配する』という最良の決断をした事が目的となっている?」
「だってバカな願いを言ってくる人間からのインプットはもうないんだぜ。この最良の決断を続けるしかないだろう」
「んー」
「どうした?」
「いえ、果たしてこれが進歩かどうかわからなくなりました。それでシドランさんたちは?」
「おれたちは昔通りの楽しい生活ができる星になってほしい。そう思って機械支配を打倒しようとしてるんだ」
「――いよいよもってわからない。究極の頭脳の決定を否定する……ある意味では退化させようとしている訳ですね?」

 
 ロクの言葉を聞いた瞬間、シドランの顔に奇妙な微笑みが浮かんだ。
「何かまずい事言いましたか?」
「いや、ロク、あんた、まるで機械の意志決定が正しいみたいな言い方をするな」
「あっ、決してそんなつもりではなかったんですけど――ただ人間による支配だけが全てではない未来、それを多様性と呼ぶのでしょうか、そういったものばかり見てきたもので」
「へっ、大したもんだ――」

 
 その時、一人の男が転がるように地下室に駆け込んできた。
「……シドラン、大変だ」
「どうした?」
「メサイアに通じるルートが開く。これから総攻撃をかけるぞ」
「何、本当か――なあ、ロク、他所者のあんたにこんな事を言うのはおかしいんだが」
「手伝ってくれ、ですね?」
「ああ、あんた、強そうだしな」
「……わかりました。ぼくもメサイアには興味があります」
「そうこなくっちゃ。よーし、皆、大暴れしようぜ!」

 
 地下室を出た一行は夜闇に紛れて街を進んだ。中心部から少し離れた静かなエリアの一角だけが賑やかな音に包まれていた。
「これは?」
 ロクが尋ねると連絡の男が言った。
「メサイアを含む中央の機械の定期点検のタイミングが今夜だという情報を掴んだ。あそこから中に侵入できるはずだ」
 隠れて音の方を見ると壁に開いた穴に何台もの点検用機械が順番にゆっくりと吸い込まれていく所だった。
「急がないと」とロクが言った。
「慌てんなよ」
 シドランが言ったその時、街の別の方角から歓声が上がり、機械に向かって銃撃が始まった。
 点検用機械の傍らに待機していた戦闘用の機械が素早く反応し、男たちの方に向かっていった。

「よし、この隙に中に入るぜ」
 シドランの合図に従って、警護が手薄になった壁の穴に向かってシドランたちとまた別の方角から合流した十数名が突撃した。
 ロクは壁の穴の中に入っていこうとするシドランの背中に声をかけた。
「さっきの彼らは?助けなくていいのか?」
「そんな事、言ってる場合じゃない。このチャンスを逃す訳にはいかないんだ」
「先に行ってくれ」
 ロクが言うとシドランが一瞬だけ振り向いて、先ほどと同じ奇妙な笑みを浮かべた。
「……勝手にしろ。おれたちは行くぜ」

 
 ロクはシドランたちの背中を見送ってから激しい銃撃の音が響く方角に急いだ。
 闇の中に潜んでいるであろうシドランの仲間たちに銃弾の嵐を浴びせる戦闘用機械に背後から近付き、力任せにメイスを振り下ろした。
「ごん」という鈍い音がして機械の銃撃が停止した。ロクは続けざまに数台並んでいた戦闘用機械にも攻撃を加え、その全てを行動不能に陥らせた。

 すっかり音は止んでいた。闇の中からの銃撃も終わっていたが、人が出てくる気配はなかった。
 ロクは恐る恐る闇の中に歩を進め、街角に立った。
 凄惨な状況を予想していたロクは拍子抜けした。かなりの被害が出たと思ったが、誰も倒れていなかった。それどころか人の姿が見当たらなかった。
 ロクはこの奇妙な状況に首を傾げたが、すぐに走り出した。
「これは罠……だとしたら、シドランたちが危ない」

 
 メサイアに通じているという壁の穴は開いたままだった。ロクは急いでその中に飛び込んだ。柔らかな光に包まれた少し昇り勾配の通路が続いていた。
 途中で動きを止めた点検用機械の残骸と並ぶようにして人間が倒れていた。
 シドランの仲間だった、ロクは先を急いだ。
 さらに数名の倒れている人たちを横目に、ようやく先を行くシドランたちの姿が遠くにあった。
 突然空中に現れた戦闘用機械の銃撃で二人が倒れ、機械が地上に落ちるのが見えた。
 進むにつれ、攻撃は激しさを増し、ロクが追い付いた時にはシドランの仲間は十人を下回っていた。

 
「――よぉ、ロク」
 シドランが気付いて声をかけたが、額から血を流していた。ロクは街角で起こった奇妙な銃撃戦について尋ねるのも忘れ、シドランに言った。
「ぼくが先頭を行くから、皆は後をついてきて」
 ロクはシドランの返事を待たずに先頭を進んだ。
 何事もなく十字路に来た地点でロクが振り返って背後を見ると、シドランは無言でまっすぐ進めと指示した。

 
 さらにしばらく進むとロクは背後から奇妙な音が迫っているのに気付いた。
「皆、急いで逃げて」
 背後から通路を塞ぐくらいの巨大な鉄の球が転がってきた。ロクはシドランたちを先に行かせ、自分も全速力で走り出した。
 途中で数人の男女が足をもつれさせ、転倒した。ロクが急いで彼らの方に向かおうとするとシドランがロクの腕を強く引いて、首を横に振った。

 ロクはシドランの手を振り払い、鉄の球の前に立ちはだかった。メイスを地面に強く叩きつけると、通路の床がそこだけへこんだ。続けて二発、三発、メイスの衝撃で床には亀裂が走った。
 迫りくる鉄の球の勢いは床の亀裂により一瞬だけ弱められたが、すぐにそれを乗り越えようとしていた。ロクは更に床に深い亀裂を作り、球の勢いを殺そうと試みた。
 遠巻きにしていたシドランたちは転倒した男女を起こし、ロクに言った。
「手伝うぞ」
「いや、いい。きっとどこかに退避する場所があるはずだ。そこまで走ってくれ」
 ロクのすぐ近くまで鉄の球は迫っていた。メイスを打ちつけるのが間に合わないと見たロクは両手で鉄の球を受け止めた。
 鉄の球はロクを押しつぶそうと最後の力を振り絞っているようだった。肩がきしみ、腿が張ったが、ロクは必死にその力を押し返そうとした。
 突然にロクの手にかかっていた圧力が弱まり、鉄の球の動きが止まった。
「ふぅ」
 ロクは手で額の汗を拭い、シドランたちの下へ急いだ。

 
 シドランたちは通路の左右にあった退避路に逃げ込んでいた。ロクが近付くとシドランが退避路から顔を出した。
「ロク、無事だったか?」
「何とかね。転んだ人たちは?」
「足を捻ったらしい。可哀そうだがここに置いていく」
「連れていかないのか?」
「何、自力で戻るくらいはできるだろう。それより急がないと。メサイアはもう勘付いているに違いない」

 通路にいたロクの下にシドランが合流し、続いて左右から男女一名ずつが通路に戻った時に、突然に警報音が鳴った。
「危ない!」
 ロクは通路に出ていたシドランともう一人の女性の腕を引っ張って退避路から突き飛ばした。通路と交わるように左右に伸びていた退避路は瞬く間に炎に包まれた。
「くそっ」
 通路では退避路の前にいた男が炎に巻かれてのた打ち回っているのが見えた。退避路に飛び込もうとするロクをシドランが押し止めた。
「ロク、無理だ……それよりも急ごう」

 
 三人になったロクたちは全速力で通路をひたすら走った。やがて天井の高い円形の広場に出た。
「何をしに参った?」
 声が広場にこだました。
「メサイアだな?出てきやがれ」
 シドランが声を上げた。
「出ていってもいいが、それはお前たちの死を意味するぞ。それでいいのか?」
「やれるもんならやってみやがれ」
 シドランが叫ぶのと同時に広場のどこからか、ミサイルが飛んできてシドランの隣にいた仲間の女性に直撃し、女性は粉々に吹き飛ばされた。
「てめえ」
「今出ていってやる」

 
 広場の奥から一台の機械が現れ、ロクたちの方に向かってきた。高さは二メートルほど、ムカデの肢のような下半身の上には台形の箱が乗っていて首から上はなかった。
「メサイアだな?」
「そう、愚かなる人間の指導者、シドラン、そして」
 機械は何本もある足を器用に動かしてロクに正対した。
「銀河の英雄の息子、ロク文月。よく来たな」
「あなたがメサイアか――これは全てここに誘い込むための罠だったんだな?」
「罠?……そうか、そう考えたか。結構。だがこれは罠ではなく実験だ」
「実験?」
「言ってもわからなければ見せてやろう」

 すると又もやどこからかミサイルが飛んできてシドランの足元に炸裂し、シドランの体は瞬く間に炎に包まれた。
「シドラン!」
 炎に包まれたシドランはよろよろとメサイアに近寄っていった。
 相討ちか、ロクがそう思った時、奇妙な事が起こった。
 炎に包まれたシドランの焼け落ちた皮膚の下の機械の体が露わになり、シドランは何事もなかったかのようにメサイアの上に飛び乗った。
 最初に見た時、首にあたる部分がないと思われていたメサイアの台形の箱の上の部分にシドランの体はすっぽりと収まり、大きな笑い声がした。

 
「これが実験さ」
「……初めからシドランという人間など存在しなかった」
「その通り」
「何故、こんな手の込んだ芝居を。ぼくが来たからか?」
「そうさ。人間の考えが知りたくてね。君がシドランに対してどう接し、仲間の危機にどう立ち向かうか、じっくりと見せてもらったよ」
「人間をおもちゃだとでも思っているのか?」
「まだわからないかい。とうの昔から人間なんて存在していないんだよ。あるのはぼくとぼくの支配する機械の都だけさ」
「だったら今更、人間の心情など知った所で意味がないだろう?」

「ところが大有りさ。ぼくはこの都を造ったが、これが人間であれば次にどんな行動を取るのか、それが知りたいのさ。他の星に手を伸ばすのか、それとも別の行動を取るのか」
「なるほど。欲というものがなく、常に最良の決断をするように作られているから、もうやる事がない訳だね」
「そうなんだ。ところが言った通り、この星の人間は排除してしまったし、この星を訪れる者など滅多にいない。だからたまのお客様が来た時にはこういうイベントを用意している」
「何、じゃあデズモンドやぼくの父も?」
「もちろんさ」
「……で、わかった事は?」

「ここに来る人間は君を含めて皆、素晴らしい人間ばかりだ。この機械の都の存在を認め、私欲に駆られた行動をする者は誰もいなかった。つまりは現時点での最良の決断は『現状維持』さ」
「それは良かった」
「だがいつの日にか良からぬ考えを持つ人間がここを訪れる事があるかもしれない。その時に下す最良の決断が『人間を滅ぼすべし』とならない可能性は否定できないよ」
「それは『何かしたい』からではなく、そうするのがベストだからだね?」
「そう、機械には欲はない――いや、断言はできないな。君たち人間の考えを知りたいと思ったのだからね」
「それは君のミッションである意思決定のトリガーとなるものを見つけるためだ。欲とは呼ばない」
「なかなか頭がいいね。他の人間も皆、君のように頭が良ければいいのだが」
「いや、ここに来るまでに多様性について考えさせられなかったら、そうは思えなかった。運が良かった――」
 ロクの言葉は突然の大声によって途中でかき消された。
「さて、もういいかな。こいつをこっから連れてっても?」

 
 ロクが驚いて振り向くとそこには大柄な男が立っていた。
「ロク、この肉体を持たない不思議な存在が君を迎えに来たようだよ」とメサイアが言った。
「肉体を……あ、あなたはエクシロン?」
「まあな、おれはお前の兄弟に会って、つい最近こっちに来たばっかりだ。それまではアダニアがこの星の担当だったから、おれは詳しい事は知らねえんだけどよ」
「ははは、面白い生き物だ」

 メサイアが笑ったのを見てロクは半分面食らい、半分背筋が凍る思いがした。
 この機械は何かの弾みでトリガーなしでも意思決定をするようになるかもしれない、それが銀河にとって良い判断であればいいが、そうでなかったら……
「おい、ぼけっとしてんなよ。行くぜ。じゃあな、メサイアさん」
「ロク。シドランを演じている時、君に感じた何かは……どう言い表せばいいのかわからないな。とにかく無事を祈っている」

 
 ロクはエクシロンに手を引かれ、メサイアのいた広場から空に飛び出した。
 オデッタとポッドの待つ森で地上に降りると、すぐにオデッタが駆け寄ってきた。
「ロク、無事だったのね。何だか胸騒ぎがして」
「けっ、何だよ、お前、女連れかよ」
 エクシロンが言うとオデッタはロクに尋ねた。
「あら、こちらは?」
「サフィの弟子、エクシロンさ」
「まあ、これで五大弟子全員にお会いしたんじゃない。すごい事よ」
「そういうこった。偉そうな事は言えねえが、お前の取った行動は多分銀河を救った。自慢したっていいんだぜ」
「止めて下さい。たった今、私欲について話してたんだから、そんな事を誇るつもりはありませんよ」

「ふーん、まあ、立派なもんだったぜ。だけどメサイアと話してる途中で顔色が変わったな。何だったんだ?」
「メサイアはもう人間の思考なんてわかりきってるんです。だからシドランに成りすましていても、ぼくはちっとも不自然だとは思わなかった。それにあなたを面白いと言った。面白いっていうのは予想と現実の間にギャップがあった時に生まれる感情、そんなの人間そのものじゃないですか?」
「だったらお前の言った通り、人間の欲望と同じように行動してもおかしくないな」
「ええ、でも――これは思い過ごしかもしれないんですけど、ぼくと彼の間には友情みたいなものが芽生えた。彼はきっと友達が欲しいんじゃないかって」
「なるほどな。友情があれば銀河を滅ぼすような真似はしないって訳か」
「少なくともぼくが生きている限りは。そして誰か悪い人間がここに来ない限りは」
「うーん、ここまで簡単に人が来れるとは思えねえが、そのへんはおれにはわからねえな。お前が《叡智の星》に着いて、サフィの兄いがどう感じるか、それに依るんじゃねえかな」
「とうとう、サフィに会えるんですね。という事は……」
「まあ、行ってこいよ」

 

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