7.6. Story 1 《密林の星》

2 リゾート・プラネット

 リチャードと茶々は風にざわめく密林を眺めた。目の前には緑の大海が広がっていた。
「おい、リチャード。凄い景色だな」
「古くからの言い伝えではこの緑の海の下に人の住む町があるそうだ。そしてそこにドリーム・フラワーの精製場があるのではないかという話だ。だがどうやって行けばいいのかな」

 茶々は周りを見回してシップを停めた背後の海岸線沿いにある建築中の建造物を発見した。
「なあ、リチャード、あっちは何だ?」
「大規模なビーチ・リゾートの開発だな。完成した暁には銀河最大の規模になる」
「ふーん、現地の人は緑の海深くに潜って暮らしてるってのに、一方ではリゾートかよ。よくわかんねえなあ」
「工事資材や労働者の搬入でシップの行き来が盛んだろう。その混雑に紛れてドリーム・フラワー運搬のシップも出入りしていると評判だ」
「あれだけ大規模なリゾート開発のスポンサーって誰だ?」
「オムニ・チオニ社という《享楽の星》にある企業集団だがどうせドノスの息のかかった会社だ」
「あれもぶっ潰した方がいいのか?」
「放っとけばいい。ドノスが滅びれば自然に消滅する」
「それもそうだな」

 
「ところで『草』の状況は?」
「ほぼ全員、あっちに向かわせた。着々と戦闘準備を進めてるよ」
「しかし実際にドノスと対決する日が訪れるとは夢にも思わなかった」
「何だよ、感傷的になるなんて珍しいな、リチャード」
「まあな。お前の兄妹たちもチオニに来る。ロクからはさっき着いたと連絡があった」
「『草』の報告だとずいぶんと警護がきついらしいぜ。ロクは止められなかったのか?」
「連邦の戦闘用シップではなくポッドだったので問題なかったらしい。外観はポッドでも性能はそんじょそこらのシップを凌ぐのに……まあ、節穴だな」

「ロクはあのポッドでいつかデズモンド・ピアナの後を追っかけるんだってよ。多分この戦いが終われば出発する。冒険家になっちまうんだな」
「ふふふ、お前たち兄妹は愉快だな。九人それぞれが独自の道を歩もうとしている」
「――なあ、オレたちは踊らされてるだけなんじゃねえか?」
「ん、どういう意味だ?」
「別に」

「ロクの次に到着するのはセキたちかヘキだ。無事に上陸できるといいが『草』の手引きが大事になる」
「そのへんは言い含めてあるよ。規模だけで言えば《享楽の星》の防衛軍は連邦に引けを取らない。まともに取り合ってたら、上陸どころの騒ぎじゃねえ」
「『草』が頼りだ。上陸しない事には暴れられない」

「ハクはどうした?」
「何だ、罵っていたのにやはり気になるか?」
「いや、ハクが来るって事はコクもって事だろ?」
「あの二人は心の奥底で通じ合っているからな。もっともそうでなくてもヴァニタスは全員来る。この決戦で得られるものの大きさを理解しているはずだ」
「盛り込み済みか」
「ああ、いっそ三つ巴になってくれた方が都合いい。我々とドノスとヴァニタス、その混乱がないと臆病者のドノスを引きずり出すのは無理だ」
「シロンの時の二の舞はごめんだな」
「千年以上も生きるには慎重さが何よりも大事なんだろうよ。さて、そろそろ谷底に降りる算段を考えるか。茶々、お前、降りてくれ」
「えっ、オレだけかよ」
「うむ。私は上から入口を探す。これだけ広いと大海で針を拾うようなものだ。お前なら早く精製場にたどり着ける」
「わかったよ。じゃあ後でな」
 茶々はそう言って、緑の海にダイブした。

 

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