7.5. Story 3 交わる場所

4 ローデンタイトの戦士

 城門の前ではケイジとくれないが待っていた。ティールの仲間の灰色の翼の者たちがバフの亡骸を担いでいた。
「セキ、それにむらさきか?」とケイジが声をかけた。
「はい。ケイジもくれないもご無事で」
「ああ、バフとトーラがこんな事になってしまったが――ティール、これ以上進むのは危険だ。トーラと一緒に安全な場所まで退け」
「ケイジさん」とトーラが代わって答えた。「城の外で帰りをお待ちします。どうかご無事で」
「――バフを手厚く弔ってやってくれ。それにしてもむらさき、ティールが言うには化け物を二匹も仕留めたそうだな」
「ええ」
「お前に何が起こったのか知りたがっている小僧がいる」
 ケイジがそう言ってくれないを振り返った。
「バンブロスの下に着くまでの間、話してやってくれんか」
「わかりましたわ。長いお話なので時間が許す限り――」
 ケイジたち一行はバフの亡骸に黙祷を捧げ、トーラたちと別れて城の中に入っていった。

 
 バンブロスの城の静まり返った薄暗い廊下を歩きながらむらさきが話し出した――

 

【むらさきの回想:『死者の国』】

 ――私が目覚めたマザーの言い付けで外宇宙の王先生の下に向かったのはご存じですよね。
 銀河の外、そこはまさしく暗黒の世界でした。どこをどう進めば王先生の住む通称、《煙の星》と呼ばれる星にたどり着けるのか、ミズチの勘だけが頼りでしたわ。
 ですが私たちのシップは途中で異世界に引きずり込まれました。
 そこにいらっしゃったのがプリンス・ルパート、先ほどお会いになったでしょう。ルパートは私たちをマックスウェル大公の下に案内しました――

 

「えっ、じゃあむらさきは王先生の所に行ってないの?」とセキが尋ねた。
「全てが計画通りだったようです。マザーと大公、それにお父様との間で約束があったらしいのです」
「父さんだって?」
「そこまでにしておこう」とケイジが言った。「話の続きはまたゆっくりしてくれ。目の前に見えるのが玉座の間の扉だ」

 
 一行は鉄製の重々しい観音開きの扉に近付いた。扉をこじ開けようとセキが大剣に手をかけるとケイジが制した。
「待て」
 ケイジは一歩前に進み出ると、目を閉じ、片膝を地面につけ、扉の向こうに意識を集中させた。
「一、二、三……セキ、何人仕留めそこなった?」
「逃げられたのは一人だけ」
 ケイジに尋ねられたセキが小さな声で答えた。
「こちらも一人だったから、新手がもう一人か……さらにこの世のものではない気配が幾つか感じられるな」
「チェントロ男爵です」
 むらさきも囁くように言った。
「手間が省けた。一緒にいてくれれば創造主との約束も守れる」
「えっ、それは?」
「ここに来る前に創造主に会った。褒美の石ももらっているので、手ぶらで帰る訳にもいかない」
「ケイジは義理堅いね」とくれないが言った。
「――乗り込むぞ」

 
 セキとくれないが左右から重い鉄の扉を押し開け、室内にケイジと蛟を従えたむらさきが飛び込んだ。
「むらさき、お前はチェントロを始末してくれ。私たちでは消滅させられないようだ」
「わかりました――でもそれらしき姿が見えませんけれど」
「そのうち出てくる」

 
 サッカーのスタジアムがすっぽり入るほど大きな暗い広間の左右両端から中央に向かって長い階段がカーブを描いていた。階段を上った中央は祭壇のようなスペースで四方に松明が灯っていた。その奥が異世界との接点だろうか、鉱山の岩肌がむき出しになっていて、その中心には不思議な粒子を纏った空間が口を開けていた。
 追いついたセキとくれないがぼけっと見ていると、左右の階段から二人のローデンタイトの戦士が降りてきた。
 中央の祭壇の所に別の戦士が現れたかと思うと、両脇の戦士に指示を出した。
「いいな。決してここに近付けるなよ」

 これを見たケイジはセキたちに言った。
「セキ、くれない。両脇の戦士にあたってくれ。私はあの祭壇の奴に向かう。むらさきはわかっているな」
 セキが右側の階段に走り、くれないが左の階段に走った。ケイジはゆっくりと歩きだしたかと思うと、姿を消した。

 ケイジが次に姿を現したのは階段の上だった。ケイジを見た戦士は驚いて叫んだ。
「……お前、どうやって」
 ケイジは戦士の問いかけには答えずに静かに刀を抜き、鬼哭に話しかけた。
「鬼哭、どう見る?」
(大した腕ではないな。お前一人でやれ)
「やれやれ」
 ケイジが刀を柄に納めるのを見た戦士が叫んだ。
「貴様、何を訳のわからない事を言ってるんだ――わかったぞ。その風体からしてあのワンガミラに頼まれて、ハープを取り返しにでも来たんだろうが、生憎だな。おれの手元にはない」
「……ん、ハープだと。面白い事を言い出したな。鬼哭、こいつは生かしておく」
(好きにしろ)
「また訳のわからない事を言いやがって」と戦士が怒った口調で言った。「《エテルの都》じゃあ亡霊剣士として恐れられたんだ。なめてかかると痛い目に遭うぞ」
「ほぉ、では文月の血筋にやられたか。ちょうどよかったな。ここにも文月を名乗るのが二人ばかりいるぞ」
「――てめえ、もう許さねえ」
 戦士は剣を抜くなり、ケイジに襲いかかった。

 
 右手の階段の下ではセキと戦士が向かい合った。頭の上の階段につかえてしまいそうなのでセキは大剣を抜く事ができずに立っていた。
 戦士の剣が伸びるのを避けながらセキは何とかして広い場所に出ようとしたが、相手は乗ってこなかった。階段の真下に陣取って、セキを挑発した。
「――どうすればいいかな」
 セキが途方に暮れていると背後から声がかかった。
「セキ。手伝ってやろうか」
 立派な大人の龍へと成長した蛟の声だった。
「ああ、ミズチ。建物を壊すのも気がひけちゃってさあ」
「セキらしいな。どうでもいい事にこだわるのが」
「それにしても、ミズチ。大きくなったね」
「ああ、覚醒ってやつだ――でもまだまだ成長する。そんな気がしてる」
「手の届かない遠くに行っちゃいそうだなあ」
「大丈夫。お前はいつまでも友達だ――それ!」

 蛟の吐くブレスを避けた戦士は階段の下から開けた場所に出た。セキがすかさず背中の大剣を抜き、一振りすると、戦士は階段の奥の壁まで吹き飛び、そのままずるずると崩れ落ちた。
「ミズチ、サンキュー……あれ、むらさきは?」
 蛟が無言で示す先にはむらさきが祭壇に向かって長い階段をゆっくりと登っていくのが見えた。

 
 左手の階段ではくれないがもう一人の戦士を相手にしていた。
 くれないの小剣の突きは的確に戦士を捉えたが、ローデンタイトが衝撃を吸収するようだった。
「ちぇっ、困ったな。何しろ硬くって」

 突然、くれないの頭の中に声が飛び込んできた。
(くれない、相手をよく見て。急所だけを突きなさい)
「……えっ、君は?」
(ぼくはシロン。そのサーベルの持ち主だった者だ。君にはそのサーベルを使いこなしてもらわなくちゃ困るんだから)
「……それは」
(そう、いよいよ、ドノスを討ち取る日が近いって事さ)
「わかった。頑張るよ。指示を――」
(いいかい――腕から剣の先まで全てが一本の紐になるように意識して、そうそう。そしてたわませた紐を一気に伸ばす!)
 鋭さを増したくれないの突きを戦士は避ける事ができず、剣先を喉元に食らってもんどりうって倒れた。
 何度か痙攣を起こした後で動かなくなった戦士を前にくれないが呟いた。
「ボクもセキみたいに覚醒したかな?」
(さあ、そこまではわからないけど、チオニに来る準備はできたんじゃないの――待ってるからね)

 セキがくれないの下に走ってきた。
「くれない。すごいじゃないか」
「うん、シロンが乗り移ったみたいなんだ」
「へえ、それはすごいや」
「そんな事より階段の上はどうなってるの?」

 
 祭壇の上では一人残ったローデンタイトの戦士がケイジとへっぴり腰で対峙していた。
「どうした。来ないのか。ならばこちらからいくぞ」
 ケイジはそう言ってから、鞘に納めたままの『鬼哭刀』で戦士の腹を一突きした。不意を突かれた戦士はよろよろと尻餅をつき、そのまま気を失った。
「――予想以上に歯ごたえがなかったな。どれ、黒幕の登場を待つとするか」

 
 ケイジの言葉に応えるかのように奥の暗闇から二人の男が現れた。
 一人はあご髭を生やした貴族風の衣装を着た小太りの男で、もう一人はまるで幽霊のような青白い顔色をしたローブ姿の老人だった。
「どっちがバンブロスでどっちがチェントロだ?」
 ケイジの質問に答えずにローブ姿の幽霊が、がさがさ声を上げた。
「……まったくもって情けないわ。ヨシュ、お前には愛想が尽きた」
 その声を聞くとケイジの脇で伸びていた戦士がのろのろと起き上がり、顔を覆っていた兜をはずした。まだ少年の面影を残す赤髪の若者だった。
「……おやじ、その姿はどうしたってんだよ。何が起こった?」
 幽霊のような老人はにやりと笑ってから口を開いた。
「お前があまりにも役立たずなのでわしが自ら動く事にした」
「おれはちゃんとやってるじゃないか」
「黙れ。実験をさせれば、男爵より頂戴した大切な石を失くし、ムスクーリ家の宝を盗ませても誰かに奪われる。わしはお前の育て方を間違えた。由緒あるバンブロス家の跡継ぎであるにも関わらず、チンピラの真似事をしてロクでもない奴らとつるんでおったのを大目に見たが、どうやら正真正銘の間抜けだったようだ」
「ちょっと待ってくれよ。だからってその姿は何だよ?」
「これか……男爵にお願いして異世界の力を手に入れたのだ。わしはこの世界を支配する王になる。ローデンタイトの戦士とこのわしの無敵の力があれば、恐れるものは何もない。お前はもはや無用だ」
「そ、そんなあ」

「おい」とケイジが声をかけた。「親子の語らいはいつまで続くんだ?」
 これを聞いた幽霊、今や変わり果てた姿のモサン・バンブロスが洞のような目をケイジに向けた。ローデンタイトの戦士、ヨシュ・バンブロスは青ざめたまま、腰を下ろし、小太りの男爵は背後でくすくす笑っていた。

 
「……貴様、《幻惑の星》のン・ガリの手の者か?」とモサンががさがさの声で尋ねた。
「よく間違えられるがそうではない。色々とあってお前たちを討ちにきた」
 ケイジの「お前たち」という言葉を聞いた背後のチェントロ男爵は口笛を吹き、肩をすくめておどけたが、モサンはケイジを見つめたまま続けた。
「ふざけた奴め。だが『現世の魔王』たるわしの瘴気を浴びれば、剣士の貴様には勝ち目などないわ」
「やってみるか――鬼哭、どうだ。斬れそうか?」
(問題ない。むしろ、死者の怨念は大好物だ。反対にあいつの気を全て吸い尽くしてやる)
「よし」
「自分の得物と語るとは。ふざけた男だ。見るがよい」

 
 モサンの体の周囲から漆黒のフレアのようなものが一斉に湧き出した。一旦は目を覚ましたヨシュはこれに触れると再び「うーん」と言って倒れこんだ。
 モサンが一歩飛び退き、ケイジに向かって「瘴波」と唱えて両手を差し出した。その手から真っ黒な瘴気の塊が飛び出し、ケイジに襲いかかった。
 ケイジは鬼哭を抜き、鬼哭は正面から瘴気を受け止めた。しばらくすると瘴気の塊は萎んでいき、跡形もなく消えた。
「――むぅ、ならばこれではどうだ」
 モサンの掌から次々と瘴気の球が湧き上がり、ケイジの足元に落下したが、ケイジは巧みにこれらを避け、鬼哭が自らの刀身で消滅させていった。
「鬼哭、気分はどうだ?」
(寝ぼけていたがようやくすっきりと目覚めた。これでチオニの決戦に臨める)
「ではケリをつけるか」
 ケイジは一瞬の隙をついてモサンの懐に飛び込み、首筋に刀を押し当てた。
「き、貴様……わしを斬ってもまたすぐに復活するぞ」
「斬るつもりなどない。ここにいる鬼哭がお前を灰に変える」
 首筋に押し当てられた鬼哭がまるで生命を持ったかのように躍動を始めた。
「ひぃ、やめ……」
 モサンの体はケイジが言った通り、枯れ木のように萎びていき、ついには一片の灰となって空中にはらはらと舞った。

 
 この様子を見たチェントロ男爵は薄ら笑いを浮かべながら言った。
「いや、結構なものを拝見しました。『下の世界』の者でも高位の者を消滅させる事ができるのですな――では私はこれで」
 去っていこうとするチェントロをケイジが呼び止めた。
「はて、まさか私まで消そうなどとはお考えではありませんよね。あなたの剣では邪悪なものを吸収できても、私を消すのは無理です――」
「別に私が手を下すとは言っていない――どうやら来たようだ」

 
 ケイジとチェントロの前にようやく長い階段を登り終えたむらさきが姿を現した。
「お前の相手は彼女だ」
 白いドレスを身に付け、槍と盾で武装したむらさきがチェントロの前に立ち、無言で挨拶をした。
「おやおや、こんな可愛らしいお嬢さんがねえ。私はフェミニストなので、その美しい顔に傷をつけるのは気がひけます」

 むらさきは静かな声で男爵に問いかけた。
「チェントロ男爵。『経方仙』、モラリナスという名前に聞き覚えがございませんか?」
「……おお、もちろんですとも。残念な事になりましたが」
「お会いした事はありませんが、私の祖父だったらしいのです」
「――なるほど。わかりましたよ。あなたは銀河の英雄の血をひく者ですな。ですがそれだけで私に挑もうとは無茶な話です」
「やってみなければわかりませんわ。祖父も色々とお世話になったようですし――」
「それを知っているとは。さては大公が裏で糸を引いていますね――忌々しい事です」
「やっかんでいるのではありませんか?」
「そうかもしれません。あの方は傍観者と言いながら、この世界に度々影響を与えている。私も少しはこの箱庭に干渉してみたいのです」
「それがこの有様ですか?」
「いけませんか。モサンが望んだから力を貸した。大公もサフィに力を貸したではないですか」
「どちらも同じだと――あなた、あまり頭がよろしくありませんわね」
「……今の言葉、侮辱ですか」
「どう取って頂いても」
「面白い。ならば己の無力を知るがよい」

 
 チェントロは二、三歩退き、むらさきと距離を取った。蛟の背に跨ったセキとくれないは祭壇の上空に留まって、様子を見守った。
 むらさきは一つ息を吐いた後、チェントロに向かって槍を突き出した。槍の切っ先がチェントロの胸を貫く、と思われた瞬間、その体は消えた。
 手応えなく槍を引くと、再びチェントロの姿が目の前に現れた。
「ふふふ、空間を支配する力を持つ者に勝てるはずがない」

 むらさきは再び槍を突き出した。チェントロの姿は消え、しばらくすると元の場所に戻ってきた。
「何度やっても同じ事です。それとももう一度試してみますか?」
 この様子を見た蛟が上空から声をかけた。
「むらさき、自分を信じるんだ。その槍がどこまでも相手を追いかけるのをイメージするんだ」
 むらさきは声の方を振り向き、ほほ笑んだ。
「ありがとう、やってみますわ」

 三度、むらさきが槍を突き出し、チェントロの姿が消えた。だがしばらくすると階段の下からうめき声が聞こえた。
「下か」
 ケイジが急いで階段を覗き込むと、そこにはチェントロが立っていて、その胸には深々と槍が突き刺さっていた。
「……ぐ、こんな形で消滅するのか……」
 チェントロの姿は薄くなっていき、最後には消えた。

 槍を突き出した姿勢のままでいたむらさきはゆっくりと槍を戻し、ケイジに尋ねた。
「手ごたえがありました」
「ああ、消滅したのを見届けた。空間を越えるチェントロを追いかける槍の一撃を放つとは驚いたな」
「私ではありませんわ。全てはこの槍と盾の持つ力」
「いや、お前は立派な『聖なる力』の戦士となった。覚醒したのだ」

 
 セキとくれないが蛟から降りて祭壇の近くに集まった。
「さて、こいつを起こそうか」
 ケイジがそう言って、大の字に伸びるヨシュに活を入れた。目を覚ましたヨシュはきょろきょろと周囲を見回した。
「あれ、おやじたちは?」
「どちらも消滅した」とケイジが静かに言った。
「……、……ああ、もう全部おしまいだあ」
「嘆くな。これからはお前がしっかりとバンブロスを盛り立てればいいだけの話だ」
「……おれにできっこないすよ」
「やるしかないのだ。やらねばお前が滅びる――そうだな、父親とは違うバンブロスを作ればいい。『空を翔る者』や『地に潜る者』を力で抑えつけるのではなく、対話して協力し合え」
「……はい」
「よし、この鉱山にも劣悪な環境で酷使されている労働者たちがいるだろう。彼らを解放し、話を聞く事から始めろ」
「わかりました」

「ところで、さっき言っていたハープの件について話してもらおうか。ムスクーリ家の屋敷から盗み出したのはお前だな?」
「はい。おやじに言われたんでローデンタイトの力で王女の部屋に忍び込んでハープを盗みました。でもこっちに戻って、気が付けばなくなってたんです。きっとあの灰色の翼が盗んでいったんですよ」
「城の外にそれらしき者たちがいる。きっとお前の力になってくれるだろうから、よろしく頼んでおけ」

 
 ヨシュは直ちに鉱山の労働者たちを解放し、それを見届けたケイジたちと一緒に城の外に出た。
 城の外ではティールたちが心配そうな表情をして待っていた。
「おお、ご無事でしたか?」
「ああ、終わった」
「それは素晴らしい。しかしこの男はバンブロスの一人息子のヨシュではありませんか?」
「そうだ。心を入れ替えてバンブロスをまっとうなものにすると言っている。協力してやってくれ」
「にわかには信じ難いですな。我々だけでなく、《幻惑の星》のワンガミラ、《魅惑の星》のムスクーリ家までも敵に回したのは、数年前にこのバカ息子が悪い遊び友達とインチキ宗教まがいの事を始め、バルジ教を冒涜したからです」
「いや、あれについては――」

「ヨシュ、なかなか手広くやっているな」とケイジが言いかけたヨシュを止めた。「バルジ教の冒涜とはどういう意味だ?」
「ちゃんとした教義に則ってはいないし、総本山の認可も得ちゃいないが、教えそのものは正しかったはずなんだ。ラーマシタラは頭のいい奴だったし」
「……ラーマシタラ。そいつは今どこにいる?」
「大事になってムスクーリ家からクレームが入って、おやじがこの星から追放しちまった――あ、そうだ。最近、思いがけない場所で再会したよ。《エテルの都》さ」
「ふむ、それでどうした?」
「何だよ、あいつに興味あんのかよ。あのバカ、おれの部下を使ってバルジ教の司祭を殺したんだ。それで……文月の誰かに追われて逃げ場がなくなったんで……おれがローデンタイトの力で《青の星》に飛ばしてやったのさ」

 《青の星》と聞いてケイジはセキに目配せを送った。
「いいのか。友人を売るような真似をして」
「いいも悪いもないさ。おれはまっとうに生きるんだ。あんな悪人、どうなろうと知ったこっちゃない」
「ティール、聞いたか。こいつは本当に真人間になるつもりらしい。信じてやってもらえぬか」
「ケイジ殿がそこまで言うのであれば」

 
「それは何よりだ。で、ティール、お前がヨシュから奪ったハープの件だが」
「残念ながらここにはありませんよ」
「すでにムスクーリ家に返却したか?」
「いえ、私は女王と直接、面識がないので、《幻惑の星》のン・ガリの下に相談に行ったのです。話を聞いたン・ガリはしばらく考え込んでいましたが、『ここで待っていろ』と言い残してどこかに出かけていきました。しばらくして戻ってきて妙な事を言い出したのです」
「妙な事?」
「はい。とりあえずハープは《誘惑の星》に住むフォックスという男に預けろと。そんな訳でハープはそこにあるかと思います」
「わかった。では立ち寄ってみよう。セキ、一緒に来い。むらさきとくれないはしばらくこの星で戦後処理に当たってくれ。色々とやる事は山積みだ」
「えっ、すぐに出発するの?」
「ふむ、それもそうだな。むらさきの話の続きもあるし、今夜はここで過ごそう。出発は明朝だ」

 

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 Story 4 『死者の国』の試練

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