7.4. Story 1 偉大なる都

3 『草』の再編

 茶々は荊、葎と共にチベットの高原に寝そべって丸い月を見ていた。明日になればこの星を離れ、《エテルの都》に向かう、茶々は小太郎との修行の日々を思い返した。
 小太郎が茶々に課した修行は過酷だった。日中は高原を走り回り、夜には暗殺剣の極意を学んだ。
 そんな修行が数か月続いたある夜、小太郎が茶々に言った。空に浮かぶ月はすっかり大きく成長した聖なる樹を照らしていた。

「茶々、お前は立派な暗殺者に成長した。私はこの世に再び生を受け、やるべき事を全うできた。短かったが幸せな人生だったと思う」
「どうしたんだよ、師匠」
「お館様もすでにあちらに戻り、私もここを去る時がきた――茶々、そして荊も葎も。追うではないぞ」
 小太郎は二度と振り向く事なく聖なる樹に向かって歩いていった。

 
 翌朝、茶々はヴィジョンを使って全ての『草の者』に指令を伝えた。
「今日から『草』は新たな一歩を踏み出す。まずは組織と指揮系統を再編する――

 

【解説:『草の者』組織】
 『草の者』の組織を説明しておく。  起源武王の隠し子『草』に始まる当主は代々幼少期『蘭丸』または『茶々』を名乗り、成人して後は『草』を名乗る決まりとなっている。  但し、当主が女性であった場合は姫であり、『薫』または『葵』を名乗り、成人しても『草』にはならない。  『当主護衛』という当主と常に行動を共にする役目があり、現在は『荊(いばら)』と『葎(むぐら)』の双子の兄弟がその任に就いている。  当主の下には『大目付』がおり、これは『草』を引退した当主がなる。男性であれば『芭蕉』、女性であれば『薔薇』を名乗るが、現在は『葵』の父が早世したために該当者はいない。  『目付』は当主の家系に関係なく実力により選任され、現在は『荘(しょう)』、『蔵(ぞう)』、『萬(よろず)』、『英(はなぶさ)』、『芳(ほう)』、『幕(ばく)』、『菩薩』の七人がこの地位についている。  その下の『頭領』が実務部隊の長であり、いわゆる『草の者』を指揮している。ここが今回の茶々の再編のポイントだった。 ・暗殺隊:頭領『菌(きん)』  実動部隊として『蘚(こけ)』、『茸(じょう)』、『荒(こう)』、『薊(あざみ)』、『芥(あくた)』、『菱(りょう)』、『蔦(つた)』等。 ・偵察隊:頭領『蕾(らい)』、『葡萄』  実動部隊として『葉(よう)』、『茎(けい)』、『蓬(よもぎ)』、『芯(しん)』、『苗(びょう)』、『藻(そう)』、『蘆(ろ)』、『茗(みょう)』、『莢(さや)』、『薄(はく)』、『芽(が)』、『苔(たい)』、『菫(すみれ)』等。 ・籠絡隊:頭領『華(はな)』、『芙蓉』  実動部隊として『花(はな)』、『藤(ふじ)』、『芸(げい)』、『落(らく)』、『蕩(とう)』、『莫(ばく)』、『萌(ほう)』等 ・呪術班:頭領『葬(そう)』  その下に『蒐(しゅう)』、『苦(く)』、『苛(か)』等 ・医療班:頭領『芍薬』、『蓮(れん)』  その下に『蘇(そ)』、『艾(もぐさ)』等

 

 茶々はここまでを一気に言い切った。そして最後にこう付け加えた。
「これから《エテルの都》に向かう。これが新しい『草』の最初の総力戦だ。皆、心してかかってくれ」

 

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