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2 ミナモとファランドール
コウとセキは空を飛びながら下界を見下ろした。
大陸のほぼ中心に城壁に囲まれた都市があり、その内側にヌニェスの言った通りの立派なコロシアムがあった。
「コウ、あそこにクラモントがいるんだね?」
「都市の城壁の外を流れる堀と城壁に立つ塔には化け物が巣食ってるらしい。そいつらをどうにかしないとな」
「むらさきがいてくれればねえ」
「あいつは戦闘向きじゃないだろ」
「でも《青の星》ではずいぶん魔物を消滅させたらしいよ。邪悪なものには強いんじゃないかな」
「ダディとミミィママンの間の子じゃあそうかもしれねえな」
ミナモの城は半分海に浸かっていて、半分が陸地に出ている特異な形状をしていた。
コウたちは陸地側の入口から城に入ろうとした。
「ミナモ女王に会いたいんだ。ヌニェスさんの紹介で来た」
しばらくすると城の跳ね橋が音を立てて降りて中に通された。
王の間の玉座には一人の女性が物憂げに腰かけていた。桜色の髪飾りをつけた美しい女性だった。
「ヌニェスの知り合いだそうだがどこから来られた?」
「厳密に言えば《巨大な星》、つまりは連邦だが、今はエミリオの依頼でクラモントを討ちにきてる」
「――なるほど。クラモントを討つとエミリオを利する訳か。連邦はそれで構わぬのじゃな?」
「最終的には……『ウォール』をぶっ壊す。そのためには必要とあらばエミリオも」
「壮大な話じゃ。だがクラモントを討つ点においては協力せねばなるまいな。勝算はあるか?」
「会った事もねえが怪しげなものがいるんだろ?」
「そうなのじゃ。お主たち、この大陸の中心にあるコロシアムには行ったか?」
「いいや」
「元々はあのコロシアムはあらゆる種族のためのものだった。観客席の一部はあえて水没させ、そこは陸に揚がれぬ水に棲む者のための専用席だった。ところがクラモントが城壁の周囲の堀にシ・ボという名の巨大な化け物魚の一族を放った」
「魚だったら苦手じゃないだろう?」
「毒の水に棲む魚など相手にできんわ。同じように城壁の塔にもス・バビという化け物蝙蝠の一族が住みついてファランドールは容易に近付けないでおる」
「ファランドールって空を翔ける者かい?」
「左様。ス・バビの出す不思議な音をどうしても打ち破る事ができずにいる。最近ではあの腰抜けはクラモントを打倒しようという気概も失くしつつある。情けない話じゃ」
「それでヌニェスさんが孤軍奮闘していたが人質を取られちまった」
「その通り。わらわやファランドールがもっとしっかりしておればと思うと口惜しくて」
「その化け物を退治すれば戦う気はまだあんだな?」
「当然であろう」
「ファランドールも一緒かな?」
「さあ、あやつは知らん。顔も見たくないわ」
「穏やかじゃねえな――わかったよ。本人に直接確認すらあ」
「――『孤高の森』に行かれるか。だったら言伝を頼まれてほしいのだが」
「ん?」
「わらわはそれほど怒っておらぬ。また昔のように……とな。後はお主たちに任せる」
「かぁっ、素直じゃねえな。じゃあミナモさんの熱い想いを伝えておくよ」
「これ、勘違いするでないぞ。あくまでもあ奴がわらわに頭を下げるのが先じゃなからな」
「わかったよ。ちょっくら行ってくらあ」
コウとセキは再び空に舞い上がった。針のように尖った山並みが続き、たまにある平らな土地にも針葉樹が茂り、針の山のような景観だった。
最も高い山の頂上に城が建っているのが見え、そこに降りた。城門でヌニェスの名を出すとすぐに中に通された。
城の中で待っていると背の高い男が現れた。顔に稲妻のような黄色い線をペインティングした逞しい男だった。
「貴殿ら、ヌニェスの知り合いか?」
「ああ、たった今ミナモさんの所にも寄ってきたよ」
「……それは真か。『静寂の入り江』に行かれたか。何か言っていなかったか?」
「ああ、言ってたぜ。クラモントにいいようにされてて、何もしないのは情けねえってよ」
「な、仕方がないではないか。あのス・バビの出す音波に我らは弱い」
「だったらそいつをぶっ倒せばあんたは立ち上がってくれるんだな?」
「無論だ。ス・バビさえおらなんだらクラモントなど恐れるに足らん」
「それを聞いて安心したよ。じゃあおれたちは行くから」
「どこへ行こうというのだ?」
「決まってるだろ。魚と蝙蝠の化け物を退治しに行くんだよ」