7.2. Story 8 南へ西へ

4 最強の二人

「ねえ、麗子さん。あの辺りかな?」
 ヌエの背にまたがったセキが下を見ながら隣の麗子に言った。
「確かにあまり良い気配ではないけど……ここは養に任せてもっと南に行きましょう」

「南で蘇った魔物の正体を知ってるの。養さんが場所を伝えた時に頷いてたけど」
「ええ、おおよそね。自らの統治の邪魔になる者は粛清しまくった人間だと思う」
「シシンもそうだし。そんな人ばっかりだね」
「この星の長い歴史の中でたまに出現するそうした人間を一堂に集めたからこうなっているだけよ。同時代にそんな人間が何人も誕生していたらとっくに星は滅びてた」
「でもロロは敢えてそういう状況を作った。魔物の方がずっと力もあるし、手強いと思うけどな」
「長い時間をかけて計画された企みよ。目立つ魔物に目がいきがちだけど、その背後で復活した恐ろしい人間たちこそが真の脅威だわ」

「麗子さんは冷静に分析できてるんだね」
「ノースAの魔物を退治した後に『ネオ』に戻ってリチャードと話す機会があったの。そこで聞いただけ」
「リチャードの見通しは?」

「ロロは世界中の危険人物を選別して蘇らせようとした。その過程で養やヌエのようにこちらの味方をする者まで復活したのはご愛敬、一介の被創造物ではそこまで微細に石の力を制御する事はできなかったせいだと思う。でも目的を達成するため本当に蘇らせたかった数名を復活させる事には成功した」
「じゃあもう手遅れって事?」
「長い時間をかけて練られた綿密な計画なのよ。でもこちらには計画外の蘇った存在、そしてあなたたち兄妹のような予測不能な力がある」
「僕たちが?」
「この先の南のジャングルの人間、縊鬼やシシンを倒していけば水も漏らさぬ計画に針の先ほどの穴が開く」
「で最終的には?」
「そこまではあたしも知らないし、リチャードもわからないって言ってたわ」

 
「ここはジャングルだね」
「都に出てはいない……この地の人々を地獄に引きずり込んだ人間は許容されない。人間はそれほど愚かじゃないわ」
「それを聞いて安心した」
「さあ、とっととやりましょう。あたしが先に立って道を切り開くから、セキ君は後ろから攻撃よ」

 
 それから数時間後、セキたちはジャングルに潜む数百名の勢力を殲滅し終えた。
「ひどいもんだね。小さな子供を人質に取ったりして」
「でもセキ君の重力制御のおかげで全員無傷だったじゃない?」
「縊鬼は?」
(ここにはいなかったな)
 ヌエがぼそりと呟いた。
「何でそんな事わかるの?」
(出かけに養が匂いを教えてくれたがここにはその匂いが残っていない。大分前に逃げ出しやがった)

「一体どこに逃げたんだろ?」
(じじいに言われたろ。ここから西の亜大陸に向かえばいいんだ)
「でもヌエ、インドはとても広いわ」
(それもそうだな。だったらこういうのはどうだ。先回りして待ち伏せすんだよ)
「先回り……待ち伏せ?」
(わかってねえな、セキは。だからじじいに言われたじゃねえか。約束の地はチベット。いいのも悪いのも皆、そこを目指してんだ)
「チベットまでの道のりのどこかに先に着いてればいいんだね」
(そういう事だ。とっとと出かけるぜ)

 
 更に数時間後、セキと麗子はヌエの背中にまたがり山を越えて高原の入り口の町に到着した。
(この辺でいいんじゃねえか。ここは魔物にも襲われていねえようだし)
「本当に来るかなあ」
(来させるさ。相手は物凄く鼻が利くからほんの僅かな気配でも感じ取って動き出すに決まってんだ。だから養に追い込んでもらう)
「どういう事?」
(養が追っかけるぞって気配を送るだけだ。大陸の南からこっちに向かって逃げてくるように仕向ければ勝手に罠に飛び込んでくる)
「そうか。ほんのわずかでも感じ取れるのを逆手に取るんだね」
(ああ、養にはもう連絡したし、お前の兄貴やその彼女、それにじじいにも協力するように言ってある。それだけの人間にプレッシャーかけられりゃ慌てて逃げてくるさ)
「うん、きっと上手くいく。ねっ、麗子さん」

 
「……」
(どうした、麗子?)
「ロロの狙いが少しわかった気がするの」
(言ってみなよ)
「セキ君の兄妹たちがこれから西で対峙する人物の復活こそがロロの計画の最大の狙い。彼は狂気に満ちた人間たちをまとめ上げて何かを起こすつもりなんじゃないかしら?」
(ご名答だ。他の兄妹がそいつに会うまでにコウやセキが東の悪い奴らを片付けておかないとこの戦いは負けだ)

「でもどうしてチベット。決戦は西の地じゃないの?」
(最大の疑問はそこだな。チベットで何が起こるかなんて誰にもわかりゃしない。やり残した実験の続きって所じゃねえか――それより今からの段取りを伝えるぜ。広場に行こう)

 

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