7.2. Story 6 北の異変

2 加護

 ハクとコクはロクに手配してもらった連邦の中型シップにネーベを乗せ、世界中のディエムの視察を行った。
 オリジンにある起源のディエム、ノースAの荒野のディエム、サウスAの大河のディエム、どれも巡礼のディエムと同様だった。それらはかなり人里離れた場所に建っていたが、魔物から逃れた人々の避難所となり混雑していた。

「ネーベ、どこも同じだ。どうやら魔物はディエムを襲撃しないみたいだ」
 ハクが言うとネーベはにこりと笑った。
「そうみたいね。でももう一つの謎、あなたたちとディエムの関係がわからないわ」
「そんなのはあんたの妄想に過ぎないって。俺たちが創造主の所業に関係あってたまるか」
 コクの言葉にネーベは目を丸くした。
「そうかしら――まあ、いいわ。残るディエムは後五つ、出発するわよ」
「やれやれ、人使いが荒いな」

 
 パシフィックの洋上にある海溝のディエムを見終えて、氷山のディエムに向かう途中でハクがある物に気付いた。
「あれ、ロクのシップじゃないか?」
「本当だ。あいつら大洋リージョンに来てるんだ」

「おい、何してんだ?」
 声をかけられたロクのシップからヘキの声が聞こえた。
「何してるって……タコやイカの化物と格闘してるに決まってんでしょ。『何してんだ』はこっちの台詞よ。暇なの?」
「いや、実はな……各々云々」

 
「ふーん、そういう訳ね」
「ハロー、ネーベよ。ジュネの所のお嬢ちゃん、大きくなったわね」
 いきなりコクのヴィジョンにネーベが映り込んで挨拶をした。
「あら、おばさん、久しぶり。相変わらず元気そうね」

「おい、何だ。ヘキとネーベは知り合いだったのか」とコクが言った。
「まあね、母さんとネーベさんとニナママは気が合うみたいでよくこの星で会ってたの。あたしも小さかった頃に何度かネーベさんと会ってるんだけど、その当時と印象が変わらないっていうのはすごいわね」
「どういう風に変わらないのよ?」とネーベが間髪を入れず尋ねた。
「その、何ていうか、張り切ってるっていうのかな」

「よく言えばそうだけど、悪く言えば空回りで周囲にいつも迷惑かけてるって事でしょ。あたしだってそんなの百も承知してるわよ」
「えっ、おばさん。決してそういうつもりじゃ」
「そうだぜ。ネーベ」とコクも付け加えた。「俺たちゃ、こうしてあんたとディエムを巡ってるのはちっとも迷惑だなんて思わねえ。むしろ感謝したいくらいさ」
「本当?」
「ああ、本当さ。皆、あんたの味方だよ」

 
「で」とハクが言った。「タコやイカは全部片付いたのかい?」
「あらかたね。でもまだ海の主みたいな巨大な蛇に苦労してて、ここで思案中だったのよ」
「シー・サーパントか。だったら私たちに任せてくれないか」
「そうね。せっかくこんな場所で会ったんだし、お願いするわ。で、どうすればいい?」

「このまま氷山のディエムがある付近まで敵を追い込んでくれればいい。後は私たちがどうにかする」
「わかった」

 
 ハクとコクのシップが先に氷山のディエムのある南極海に到着し、ロクのシップの到着を待った。
「来た。あれだ」
 ハクが言うとコクも続いた。
「確かに何かが後を追いかけてきてんな。あれが海の主か」
「もう少し引き付けたらやるぞ」

 
 ロクのシップの船内が目視できる距離まで接近した時にハクとコクのシップは上昇した。
「雷!」
「電!」

 ハクとコクはありったけの雷をロクのシップの背後の影に向かって撃ち込んだ。
 奇妙な声と共に巨大な蛇が海上に姿を現した。
 蛇はしばらく動きを止めていたが、やがて何事もなかったかのように再び水中に潜り始めた。

「ありゃ、だめだな」
「相手が大きすぎて効かないみたいだ」
「……仕方ねえな。実は試してみたい事があってここまでおびき寄せたんだけど、いいか?」
「いいも悪いもないさ。このままだと奴は又、ロクのシップを襲おうとする」
「じゃあ」

 
 コクはそう言うとシップを下りて氷山のディエムに向かって飛んでいき、上空で停止した。
「ディエムよ。見えてんだろ。ピンチなんだ。もしもこれが文月を見守るための装置だっていうのなら助けちゃくれないか」

 
 水中に潜った大蛇が停止中のロクのシップに襲い掛かろうと、海上に頭を現した。
 次の瞬間、猛烈な冷気が吹き付け、蛇は一瞬で凍り付いた。
「おいおい、本当かよ」
「色々と言いたい事はあるが、まずは破壊だ」

 
 氷山のディエムの周囲でロクのシップとハク、コクの乗るシップがヴィジョンで会話をした。
「ねっ、言った通りでしょ。ディエムとあなたたちは深く結びついているんだって」
 ネーベが未だ興奮冷めやらぬ口調でまくし立てた。
「単なる偶然かもしれねえが、そう考えるのが普通かもな」とコクが答えた。

「でもまだ疑問は残る」とハク。「ディエムが現れたのは1970年、私たちが生まれるずっと前、父さんが子供の頃だ。だからディエムが父さんを見守るためにあるというのなら納得もいく。でもその父さんはもうこの星にはいない。なのにまだディエムが存在し続ける理由は何だろう?」
「難しい事考えないの}とネーベが言った。「見守りの対象がリンからあななたちに移った、それでいいじゃないの。あたしは今ものすごくハッピーなんだからあまり水を差さないで」
「え、ええ」

 
「ヘキ、それで」とコクがハクに代わって尋ねた。「次はどこに向かうんだ?」
「大洋は片付いたから、いよいよ大陸。イーストにはコウとセキがいるし、ノースは茶々。ウエストに上陸するつもりよ」
「そうか。俺たちも残りのディエムを見終えたら一度巡礼のディエムに戻るつもりだ。そこで合流しようぜ」
「わかったわ」

 

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