目次
2 むらさきの力
茶々たちと別れたヘキとむらさきはサウスAに向かう途中で地上に降り、様子を確認した。
その高地にある都会は大量のスモッグに覆われていたが、車は一台も走っていなかった。
「目がチカチカする。あの車両が撒き散らしてんだね」
ヘキが路肩に乗り捨てられたボロボロのフォード・エスコートを見て言った。
「少しは空気がきれいになるんじゃありませんか」とむらさきは微笑んだ。
「そうだね――さてと、連邦軍の人間はいないかしらね」
ヘキたちは時が止まったような街路を歩いて人を探し、ようやく前方に二人の人影を認め、大声を出した。
「ちょっと、あんたたち」
ヘキが呼ぶと二人連れは振り返って驚いた表情を見せた。
「あんた、文月の――」
振り返った二人がフリオとマリオだったのに気付き、ヘキも同じように驚いた。
「こんな所で何してるの?」
「ハーミットから指示が出てさ。戦える者は戦えって――で、志願してこっちに来たんだ」
「ふーん、感心だ――ああ、紹介するね。妹のむらさき」
フリオとマリオは微笑むむらさきをしげしげと見て首を傾げた。
「あんたの兄妹はバラエティに富んでんな。この子なんかとても戦えそうにない風体じゃないか」
「外見だけで判断しちゃだめよ。連邦の報告によるとこの辺から南は吸血鬼だらけなんだろ。あんたたちがいくら強くってもそんな相手にどうするつもりよ」
「そうなんだよ。吸血鬼と戦った事なんてないからさ」
「どんな姿?」
「でかいコウモリだって奴もいれば、宇宙人みたいで背びれが生えてるって奴もいらあ」
「出てくるのは夜中?」
「ああ、昼間は安全なはずだが、皆びびっちまって外に出やしない」
「じゃあ夜を待とう」
太陽が沈み、夜になり、ヘキたちは再び街に出た。
「人が出てないと静かだね。まるで廃墟だ」とヘキが言った。
「ヘキ」とむらさきが声をかけた。「あちらの方で嫌な気配が――」
ヘキはフリオたちにも声をかけ、市街の北のはずれにある美しい公園に向かった。
電気の絶たれた真っ暗な公園の中に入り、むらさきが言った。
「あちらです」
小さなホールがあり、その傍に大きな木があった。
「来ます」
むらさきの言葉を合図に全員が身構えた。ヘキが飛んできた黒い塊に渾身の蹴りを入れると、それは地面にどさっと落ちて、もがいた。
「むらさき、早く」
へきに言われ、むらさきは「はい」と言って微笑んだ。
「元の世界にお帰り」
むらさきの手から柔らかな光が発され、地面でもがく巨大コウモリの姿は消えた。
「――すごいな。邪悪を浄化する力か」
フリオとマリオは感心した表情でむらさきを見た。
「この場所は終わりですね。広いですから急ぎましょう」