7.1. Story 7 最高機密

3 静かな夜明け

 外に出たリチャード、ケイジ、それにリンの子たちは形容し難い異変を感じ取った。
 気味悪いほど鮮やかな朝焼けが空と荒野を染め、全く音のしない静か過ぎる朝の景色が目の前に広がっていた。
「昔、『渚にて』という映画があった」とケイジが言った。「核戦争で全てが滅びた後はこのように静かなのかもしれないな」
「縁起でもない事言わないでよ」

 
 ケイジの言葉に心配になったセキは少し離れた場所でサンタを呼び出した。
「サンタ?」
「セキ、東京に夜間外出禁止令が出たけど、あんた、今どこにいるの?」
「アメリカ」
「そっちは朝か。大変な事にならないといいわね。じゃあこれから渋谷の鬼退治に出かけるんで、又」

 
 セキがヴィジョンを切って周りを見回すと、リチャードや兄妹たちもやはりヴィジョンで誰かと話していた。
 全員がケイジとくれないの下に戻り、最初にハクが口火を切った。

「この星全土に魔物が出現した。ロロが最期に放った”Resurrection”の力が一気に表に現れたのだろう」
 続いてコクが口を開いた。
「現在、連邦で把握している情報は、アメリカ、それにイギリス、フランス、ドイツでの謎の存在による軍事施設の襲撃、世界各地での吸血鬼、ゴーレム、鬼の出現事例、そんな所だが恐らく全世界規模のはずだ」
「ロロの頭の中にあった魔物が全部蘇ったって訳か。ひでえ置き土産だな」とコウが言った。
「でもここであたしたちがロロと対峙したために起こった事だとは誰も気付いていない」とヘキが言った。

「それについては限られた関係者だけには真実を伝えておく」
 リチャードが静かな声で言った。
「それよりも厄介なのは人間も復活した可能性がある点だ」
「どこが問題なんだい?」とロクが尋ねた。
「想像してみろ。稀代の極悪人や殺人鬼が徘徊する街を。ある意味魔物よりもタチが悪い」

 
「ねえ、早く。皆で手分けして混乱を収めようよ」
 セキが叫んだがリチャードもケイジも考え事をしているのか、問いかけに答えなかった。
「どうしたの。僕らがロロを追い込んだからこうなった、僕らの責任でしょ?」
「確かに私たちがトリガーだったかもしれないが、そう遠くない未来に奴は一人でもやっていたはずだ。ヴァネッサの石が手に入ればとっとと実行していただろうし、それができず私たちに追い詰められたため腹を括っただけだ」とリチャードが言った。
「だからって何もしないでいい訳じゃないでしょ――もういいよ。僕一人でやる」

「待て、セキ」
 止めたのはケイジだった。
「このような時だからこそ走り出す前にまず考えろ」
「ケイジの言う通りだ。一旦『ネオ』に移動する。むらさきも交えて対策を立てよう」
「――僕はやる」
「わかった。だったらセキは日本の担当だ。もえやその家族を守ってやれ」

 
 ハクはロロの隠れていた基地をもう一度振り返った。

 ――ぼくたちはこの星の滅亡の扉を開けてしまったのか

 

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 ジウランの航海日誌 (1)

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